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まいむのFQ二次創作

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ルーミィの初恋

モルモの村の定期チェックを押し付けられた、パステル。
トラップとふたりで、ルーミィ・シロちゃんを連れて行くことになったが・・・

あるきっかけから、女の子として目覚めたルーミィが、モルモの男の子に、恋をする!

※新フォーチュンクエスト8 待っていたクエストエピソード3を下敷きにしています。






  「なぁ・・・最近、ルーミィのやつ、おかしくねぇ?」
わたしの部屋にやってきたトラップが、ベッドにひっくり返って、おもむろに尋ねた。
いつものことだけど、そこ、わたしのベッドなんですけど!
と思いつつ、家計簿をつけていたペンを置いて、わたしは振り返る。
「やっぱりトラップも気づいた?」
苦笑いしながら言うわたしに、トラップは大きくため息をついた。
「気づくに決まってんだろ。なんであいつ、あんなに鏡に貼りついてんだよ?」
 
そうなの。
最近、ルーミィの様子がおかしい・・・
ま、トラップからしたら、そんなところだろうけど。
鏡をやたら気にしたり、服装をやたら気にしたり、手づかみでモノを食べなくなったり・・・
はい、そうなんです!
どうやら、ルーミィもお年頃のようなのです!!
見た目はとっても可愛いけど、基本的に着る物には無頓着。エルフ族なのに、食いしんぼう。食事のマナーはメッチャクチャ。
そんなルーミィが、どうして変わったのかというと。
こないだ、猪鹿亭でリタとお茶をしていたときに、隣のテーブルの女の子たちの会話を聞いたから・・・みたいなんだな。
 
「聞いてよー! ウチの彼氏ったら、もうちょっと服装に気を遣えって言うのよ!」
「あはは、あるある!」
「あるあるじゃないわよ! しょうがないと思わない? わたし、魚屋の娘よ? おしゃれしたって、すぐ汚れちゃうんだから! ・・・まったく、キミの内面に惚れたんだって言ったのは、どこのどいつよ!」
「でもさ、しょせん男は、うわべしか見てくれないのよ。王子サマに見初めてもらおうと思ったら、キレイにしとくしかないわよね」
「あと、やっぱりマナーとか? いくらキレイにしてても、言葉遣いとか、食事の仕方とかがキチンとしてないと!」
「やだー、あんた、そのセリフお姑さんみたいよ!」
「きゃはははは」
 
王子さま、という言葉にぴくっとしたルーミィ。
「ぱーるぅ、みそめるって、なんらぁ?」
クッキーをわしづかみにしていた手を止めると、ルーミィはきょとんしてわたしに尋ねた。
「うーん、みそめるっていうのはね、好きになってもらうってことよ」
「ふーん」
わたしが笑いながら答えると、おもむろにクッキーから手を離すルーミィ。
そして、わたしやリタがやっているように、ひとつつまんで、口に放り込んだ。
「あらら、どうしたの、ルーミィちゃん。急にお上品になっちゃって」
からかうリタに、ルーミィはすまし顔でこう言った。
「らって、ルーミィ、おうじしゃまにすきになってもらいたいんらもん!」
 
そのいきさつを、トラップに話すと。
彼は、盛大に吹きだして、笑い転げた。
「ぎゃーっはははは、はは、はは、はひー!!」
「もう! そんなに笑ったら、ルーミィがかわいそうでしょ!」
床を転げまわるトラップを、足先で蹴飛ばしてやる。
結構前から、ルーミィが絵本の王子さま、お姫さまに興味を持ってることは分かってたけど。
まさか、王子さまとの出会いを本当に夢見てるとは!
ま、実際、わたしたちもこれまでの冒険で、アンジェリカ王女とか、ミモザ姫とか・・・ロイヤルな人々には会ってるからね。
そりゃ、王子さまだって、そんなに遠い存在ではないと思うんだけど。
・・・いやいや、考えてみれば、これってけっこうすごいことだよね?
わたしたちみたいな貧乏パーティが、王族といわれる人と知り合いってのは!
「は、ひー・・・あんなチビでも、やっぱりオンナなのなぁー!」
わたしが考えてる横で、ひいひい言いながら、トラップが感心する。
「んー、まぁね。でもほら、これまでも時々あったじゃない? ピンクのクツがいいとか、駄々こねること」
「あー、あったあった。ちぇ、それ考えると、めんどくせーな」
「そういう言いかたしないの! ルーミィの成長だもん、喜んでよ!」
「ふん、んなこと言ってると、あっという間にルーミィに追い抜かれるぜ?」
そう言って、イジワルそうにわたしを見るトラップ。
「ど、どういうこと?」
その含みのある言い方が気になって、わたしが慌てて尋ねると。
トラップは、にやらぁ~っと嬉しそうに笑って、こう言った。
「おめぇも、色気のねぇ毛糸のパンツなんか、はいてる場合じゃねーってことだよ!」
「な、な、ばっ・・・」
思わず言葉を失って、口をぱくぱくさせるわたし。
「い、いいもん! 別に、そんな高貴な王子さま探すつもり、ないし! 身の丈にあった、わたしだけの王子さま探すんだから!」
そうよ、女の子にとって、王子さまっていうのはあくまで言葉のアヤで。
自分にとってのステキな人のことを、便宜上王子さまって言ってるだけなんだから!
「へっへぇ~」
トラップは、わざとらしくニヤニヤ笑いながら部屋を出て行った。
もう、もう! ほんっと失礼しちゃう!
と思いつつ・・・スカートを押さえて、ついイスの上のお尻をもぞもぞさせてしまう。
いやー、実は今日も履いてるんだよね、毛糸のパンツ!
ははは、だって、やっぱり寒いんだもん!
 
 
ところが、わたしをからかってゴキゲンで出て行ったはずのトラップが、ばたばたと戻ってきた。
「おい、おめぇに荷物だ」
と言って、それをズイッと突き出す。
「荷物?」
荷物というには奇妙なかたち。
薄っぺらくて、一抱えほどもある長方形で・・・言うなら、中に額縁でも入ってるのかな?って感じ。でも、大きさの割りに軽い。
なんだろうと開けてみると。
「なんだぁ? そりゃ」
興味津々で荷物を覗き込んでいたトラップが、素っ頓狂な声をあげて、わたしの手からそれをひったくった。
それは・・・大きな銀色の輪っかだったの。
あ、これって・・・! えーと、なんだっけ、なんとなく、見覚えがあるんだけど。
「これ・・・どこかで見た覚え、ない?」
「はぁ? あ、あれだろ、フラフープ! 一昔前に、流行ったヤツ」
「うーん、確かにフラフープにも似てるんだけど、違うなぁ。なんだっけ・・・」
「ほれ、こうやってさ」
わたしが首をひねっていると、トラップはそれをひょいとまたいで、フラフープよろしく腰まで持ち上げた。
すると、なんとなんと!
「ちょ、ちょっと!? あなた、足が消えてる!!」
「へ?」
思わず叫ぶわたしを、きょとんと見返すトラップ。
その彼の、腰から下が・・・ちょうど、フラフープもどきを境目に、消えてしまっていたのだ!
ぱっと足元を見たトラップも、仰天して叫ぶ。
「うわっ!! なんだ、これ!」
「でしょ? 消えちゃってるのよ、トラップ!」
「そうじゃねぇよ! おれ、なんで土の上に立ってんだ!?」
「えええ!?」
トラップの足元を覗き込むと、確かに!
ブーツを履いたトラップの足と、雑草の生えた地面が見える。
「・・・マジックアイテムなの?」
わたしが思わず呟くと、トラップが呆れたように叫んだ。
「おいおいおい、キットンの通販かよ! だったらそこに・・・説明書きとか、入ってねえ?」
「あ、あるある!」
でも、わたし宛にキットンが頼んだマジックアイテムが届くはずもないよね。
ギモンを残しつつ、わたしと、輪っかをくぐったままのトラップが覗き込んだ封筒・・・
「こ、これって・・・」
そこに押されていた封印は、なんと・・・カエルをかたどった印章だった!!
 
わたしたちの知ってるカエル(!?)と言ったら、ふたりしかいない。
師匠と弟子だから、ふたりと言っても・・・ふたり一組というか。
そう、その荷物は・・・ゲームサークルの館で日々ゲームに明け暮れる・・・ダンジョンマスターこと、DMからだった。
「へぇ? あのカエル親父が、何の用だよ?」
「えっと・・・」
手紙を読み進めていって、わたしはがっくりと肩を落とした。
無言でそれを、トラップに渡す。
眉をしかめて、その手紙に目を通したトラップ。
「げげっ! なんでおれたちが!?」
彼も、思いっきりイヤそうに叫んだ。
いつもだったら、わたしもそれを咎めるところなんだけど・・・
だって、しょうがないと思わない?
「面白いゲームに夢中で時間がないので、自分の代わりにモルモ村の定期チェックに行って欲しいケロ」って、書いてあるんだもの!
そりゃ、がっくりもするわよ!
そうだ、今思い出した。
逆クエストのモルモ村から命からがら逃げ出して、ブラックドラゴンJBと一緒にゲームサークルの館にいる、DMに会いに行ったときのこと。
彼に、モルモ村がおかしくなっているって言ったら。この輪っかを取り出して・・・ワープしちゃったのよね、モルモ村に。
自分のダンジョンを点検してまわるときに、これを使ってるって話だったけど。
これって・・・「任せた!!」ってことよね、やっぱり。
問答無用で送りつけてくるなんて・・・あーあ、なんてハタ迷惑な人・・・っていうか、なんてハタ迷惑なカエルなの!!
 
 
「はぁ、まぁ・・・らしいというか、なんというか」
夕食のときにその話をすると、パーティのみんなは一様にため息をついた。
「まぁ、いいんじゃないか? 報酬も出してくれるってことだし、ワープできるなら、手間もかからないし」
クレイが、苦笑いしながら、そう言ってくれたんだけど。
「しかし・・・困ったな。おれ・・・今バイト先がセール中だから、抜けられないし」
えええ、そうなの!?
わたしが非難がましくクレイを見つめていると、その横でキットンが短い手を挙げた。
「あ、わたしもですね。今新しい薬の仕込み中で、目が離せませんから。できることなら留守番がいいですね」
すると、ノルまでも、申し訳なさそうにおずおずと手を挙げる。
「・・・おれも、今、仕事、忙しい。冬の薪、切り出ししてる」
がーん、ノルまで!!
そうなのよね、もう冬だから、わたしたちはクエストに出るのを控えて、バイトの予定をぎっしり入れてるんだ。
ってことは・・・ト、トラップも!?
トラップは、大丈夫よね!?
わたしが期待をこめた目で見つめると、トラップはちょっとたじろいだ。
「な、なんだよ、その目は!!」
「トラップは、行ってくれるわよね?」
「・・・つってもよぉ・・・おれだって、一応バイトしてんだぜ? おめえみたいな自由業とは違って、勤め人なんだよ」
「ううう・・・そうよねぇ」
わたしは、締め切りさえ守れば、夜書いても朝書いても自由な仕事だけど・・・
パーティの他のみんなは、そんな急に予定明けられないんだよね。
冒険者だからって、そんなほいほい休んだら、バイト先も困るし、こっちも信用なくしちゃうし。
わたしたちにとって、バイト先の信用をなくすってことは、死活問題なんだから!
「うーん、となると・・・さすがに厳しいな。仕方ない、断るか」
クレイが腕組みしながら言う。
でも、断るにしたって、手紙を出すか、ゲームサークルの館に行くしか、ないわけじゃない?
定期チェックだけなら危険もないだろうし、ルーミィとシロちゃん連れて、わたしたちだけで行ってこれるかも。
わたしが、そう口を開きかけたときだった。
「わぁった、わぁったって! おれが、何とかバイト先にかけあってみりゃいいんだろ!」
トラップが、“お手上げ!”ポーズを取って叫んだ。
「ほ、ほんと!?」
「しゃーねぇだろ、ま、日帰りで行ってこれるんだったら、速達以外は次の日に回してもらったっていいし。けっ、このおれさまを担ぎ出したんだ。報酬、倍額払わせてやるぜ!」
「よかったー、ありがとう、トラップ!」
わたしがホッとしてお礼を言うと、トラップは照れくさそうにそっぽを向いた。
「けっ」
横を向いたまま、不機嫌そうに呟く。
「また例の魔法使いが復活してたりしたら、コトだしな」
そうだった!
あの逆クエストのときは、大変だったんだよね。
デュムリュムっていう魔法使いが暴走してて。
定期チェックかぁ・・・何事もないといいんだけど。
 
 
でもそのトラップの心配は、杞憂だったみたい。
わたしたちが一応の装備を整えて、輪っかをくぐってモルモの村へ行くと・・・なんとも平和な風景が広がっていた。
ダンジョンの中のはずなのに、ふんわりと暖かいモルモ村。フカフカした小さい人形のような村人たちが、ノンビリと行き来している。
「あらあら、パステルさん、ようこそおいでくださいました!」
村長の家に顔を出すと、村長の娘エモッサが出迎えてくれた。
パッとピンク色に顔を染めて、わたしを見上げていたけど・・・その顔が、徐々にブルーに変わっていった。
「クレイさんは、今日はいらっしゃらないのですか?」
エモッサは、わたしとトラップに交互に視線を走らせて・・・いかにも残念そうに言う。
そういえば、彼女はクレイのことを気に入ってたんだっけ。
「そうなのよ、ごめんね。今度来るときは、クレイも連れてくるから!」
わたしがそう言うと、エモッサはぱぁーっと真っ赤になった。
ふふ、モルモ族って、感情がそのまんま顔色に出ちゃうのよね。
嬉しいときや恥ずかしいときはピンク色になるし、悲しいときなんかはブルーになる。
隠し事のできない種族なんだな。
「い、い、い、いやですわ! 別にそんな、クレイさんがいないからつまんないだとか、トラップさんよりクレイさんのほうがいいとか、そんなことはわたし、一言も・・・」
くねくねと身をよじりながら言うエモッサ。
「言ってんじゃねーか!」
わたしの隣で、トラップが憮然とした顔で呟いた。
 
 
わたしたちは、村長の家で、盛大なもてなしを受けた。
温かい湯気を立てるシチュー、みずみずしいサラダに焼きたてのパン、クッキー、ケーキに色とりどりの果物。
こんなに大歓迎してくれるなら、毎回定期チェック頼まれても、いいなぁ・・・
わたしがそんなことを考えながら食事をしていると、テーブルに、男の子が一人近寄ってきた。
エモッサが、彼を手招きして、紹介してくれる。
「パステルさん、わたしのイトコのジャンですわ」
「は、はじめまして・・・ぼく、ジャンです」
大きさは、エモッサよりも少し小さいくらい。
そういいつつ、真っ赤な顔でエモッサの後ろに隠れる様子は・・・まだ子どもなのかな?
「初めまして、ジャン。わたしは、パステル。こっちは、トラップよ。で、そっちにいるのが・・・」
「るーみぃだお!」
「ボク、シロちゃんデシ!」
おやおや? ジャンは、ルーミィに挨拶されると、腕や足まで真っ赤になって、エモッサの後ろに完全に隠れてしまった。
「うふふ、この子ったら、ルーミィちゃんのことが気になってるんです」
「えええ、そうなの!?」
茹でダコみたいなジャンは、エモッサの背中から、ルーミィのことをちらちらと見ている。
へぇぇ、かわいい!
「ルーミィ、ルーミィったら」
ルーミィは、先日の猪鹿亭での出来事をまだ気にしているようで・・・いつもの食いしんぼではなく、上品に(!?)一口ずつごちそうを口に運んでいたけど。
目は獲物を狙うオオカミのようにらんらんと輝いて、いつもは食べこぼしで汚れている口元が、今日はヨダレで汚れている・・・とほほ、ダメじゃん、それじゃあ!
こんなルーミィを、気にしてくれる男の子がいるのねぇ。・・・モルモの男の子だけど。
わたしがため息混じりにルーミィを突っつくと、彼女は、きょとんとした顔でわたしを見上げた。
「ほえ?」
「ほら、ジャンがね、ルーミィと一緒に遊びたいんだって」
「そうなのかぁ?」
「そうよ、ほら、ごちそうは後でも食べられるから。まだこんなにいっぱいあるでしょ」
ぐいぐいと口元を拭いてあげると、ルーミィはしばらく考え込んで。
「う~ん・・・じゃ、そうすう!」
イスから飛び降りて、ジャンの前でニッコリと笑った。
「じゃん、あそぼ!」
「ルーミィしゃん、待ってくださいデシ!」
ジャンと手を繋いで駆け出していくルーミィと、それを追いかけるシロちゃんを見送って、わたしはトラップをうながした。
「さ、トラップ。わたしたちも、行きましょ」
「あん? どこへだよ?」
もう、トラップったら!
ビール飲んで、すっかりいい気分になっちゃってる。
「もー、何のためにここに来たと思ってるの!? おかしなことが起こってないか、点検に来たんでしょ!」
「う、うぐぐぐ・・・」
ジョッキを握りしめたままのトラップの首根っこをつかんで、ぐいぐいと揺さぶる。
「はぁぁ、しょうがないなぁ。ひとりで行ってくるか・・・」
ううう、何事もないといいんだけど。
ひとりで行くのも、ヤダなぁ。
でも、トラップは一度酔っ払っちゃったら、テコでも動かないしなぁ。
仕方なく立ち上がると、腕をハッシと掴まれた。
びっくりして見ると、うつろな目をなんとか開いてるって感じのトラップが、わたしを見上げている。
「わぁーってるって、おれも行くって。・・・その前に、水・・・」
 
 
「さてと、問題は、あのデュムリュムの家と、林だな」
「そうね・・・何も起こってないといいけど」
わたしは、まだ顔の赤いトラップとふたりで、モルモの村を歩いて回っていた。
どこから見ても、平和そのもの。
パステルカラーのモルモの村人たちが、すれ違うわたしたちに親しげに手を振ってくれる。
林の近くの広場を通りかかると、ルーミィたちが遊んでいた。
「ルーミィ! 今から、トラップと林に行くんだけど・・・ルーミィはどうする?」
わたしが聞くと、ルーミィは立ち上がって、首を振った。
頭には、花かんむりが載せられていて、首にもレイのように花飾りをつけている。
ジャンが作ってくれたのかな?
「ううん、るーみぃ、じゃんといっしょがいい!」
「そう、じゃあ行ってくるわね! ジャン、シロちゃん、ルーミィのことよろしく!」
恥ずかしそうにピンク色の顔をしながらも、神妙にうなずくジャン。
その足元で、シロちゃんがぱたぱたとシッポを振っていた。
 
 
いよいよ、林へと足を踏み入れたわたしとトラップ。
怪しいところは、何もなさそうだけど・・・
でも、デュムリュムのファイアーボールが直撃したときの記憶がよみがえって、わたしは怖くなってしまった。
わたしの前を歩くトラップの腕を、思わずぎゅっと掴む。
「うわわっ!」
「えっ、な、なに!?」
いきなり大声を上げたトラップに驚いてわたしが聞くと、トラップは呆れた顔で振り向いた。
「そりゃ、こっちのセリフだっつーの! なんだよ、驚かすな!」
「ご、ごめん・・・なんか・・・怖くなって」
「はぁ!?」
「だって・・・」
わたしがしょんぼりうなだれて言うと、トラップはぐっと詰まって・・・ヤレヤレとため息をついた。
「ま、しゃーねぇか。あんときゃ、けっこうやばかったしな。ほれ」
うつむいたわたしの視界に、手が差し出された。
はっとして顔を上げると。トラップが、思いっきりぶんむくれながらも、わたしに手を差し出してくれていた。
「ほれ、とっとと行くぞ」
トラップは、強引にわたしの手を握ると、歩き出した。
 
「ねぇ、なんか、聞こえない?」
サク、サク、サク・・・草を踏むわたしたちの足音に混じって、ガサ、ガサ、ガサ・・・という微かな音が聞こえる。
「ああ。なんか・・・ついてきてるな」
どうしよう・・・もしかして、やっぱりデュムリュムが復活してたとか?
それとも、モンスター?
わたしたちは、目を合わせて合図すると、同時に振り返った!
そして・・・ふたり同時に、がくがくとへたり込む。
「だぁぁぁ、シロかよ~」
「ああああ・・・よ、よかった・・・シロちゃんかぁ~」
「はいデシ!」
そこにいたのは、白い毛に草のカケラをいっぱいくっつけた、シロちゃんだった。
わたしたちのあまりの驚きように、恐縮するシロちゃん。
「ご、ごめんなさいデシ。ルーミィしゃんとジャンしゃんのとこ、お邪魔だったみたいデシから、ついてきちゃったんデシけど・・・こっちもお邪魔だったデシか?」
シロちゃんは、クルッとした黒い目で、わたしを見上げる。
ルーミィと、ジャンのとこが、お邪魔?
あああ、そっかー。確かに、さっきのルーミィもジャンも、すごく楽しそうで・・・イイ雰囲気って感じだったもんね。
シロちゃんってば、そんな気遣ってたんだ!
子どもだけど、賢いんだよね。
ふふ、そんな気遣いまでできちゃうなんて、トラップより賢いくらいかも!
「何言ってるのよ、わたしはシロちゃんをお邪魔にしたりなんかしないわよ! 一緒に行こう!」
「いいんデシか? ・・・でもトラップあんちゃんが」
「さー、行くぞ、シロ! なんだよ、葉っぱついちまってんじゃねぇか、よし、俺の肩に乗れ!」
「はいデシ!」
トラップは、パッパッとシロちゃんの毛に絡まった葉っぱを取ると、ひょいと自分の肩に乗っけた。
トラップも優しいとこあるじゃん!
さっきは、手繋いでくれたし・・・お酒飲んでても、わたしが見回り行こうとしたら、ちゃんと一緒に来てくれたし。
やっぱり、クレイやノルがいないと、トラップもシッカリしなきゃって思うのかな?
そうだよねー、たまには、こういうのもいいかも!
ほら、いい薬になるっていうの?
「あ、ちょっとちょっと! 待ってよ、置いてかないでったら!」
わたしは、さっきまでの恐怖はどこへやら。
さっさと先を行くトラップとシロちゃんを慌てて追いかけた。
 
 
村の雰囲気から察したとおり、林も、デュムリュムの家の跡も、特に変わりはなくて。
わたしたちは、ほっと胸をなでおろして、村へ戻った。
出迎えてくれたエモッサの後ろで、ルーミィとジャンが仲良くジュースを飲んでいる。
「お帰りなさいませ、パステルさん! どうでした?」
「うん、大丈夫みたいだよ。何も、変わったところはなかったし」
「ああ、それはよかったですわ! ありがとうございます!」
わたしがにっこり笑って言うと、エモッサは、ぱぁぁっと顔を上気させて喜んだ。
さて、これで定期チェックも無事に終了。
わたしは、ルーミィに声をかけた。
「ほら、ルーミィ。帰るよ!」
しかし、彼女は・・・ジャンの後ろに、さっと隠れてしまった!
えええ、な、なんで!?
わたし、なんか、したっけ!?
「おい、ちびすけ。置いてくぞ?」
「ルーミィしゃん、帰らないデシか?」
ショックに打ちひしがれるわたしの横で、トラップとシロちゃんが言うと。
ルーミィは、ジャンの後ろから、わたしたちに首を振った。
「やだやだやだぁ、ルーミィ、じゃんといっしょがいいの! じゃんといっしょにいるー!」
目にいっぱい涙を溜めて、ダダをこねるルーミィ。
ジャンは、困った様子で・・・泣きそうなルーミィをじっと見つめている。
もしかして・・・そっか。
ルーミィだって女の子だもん、いいなって思う男の子が、できることもあるよね。
・・・それが、作り物の、モルモの男の子だとしても。
わたしが、抱っこしようと手を差し出したまま、何も言えないでいると。
トラップが、ルーミィの頭をぽんぽん、と叩いて優しく言った。
「また来りゃいいだろ? 会えなくなるわけじゃ、ねぇんだし」
わたしも、胸を締め付けられるような切なさを押さえて、ルーミィに微笑みかけた。
「そうよ、ルーミィ。また、遊びに来よう?」
「ほんとか? いつ?」
「うーん、すぐ。すぐよ、いつでも来れるんだから」
ブルーアイをうるうるさせて、わたしを見上げるルーミィ。
しばらく、そうやって迷っていたけど・・・やがて、小さくうなずくと、ジャンに向き直った。
「じゃん・・・またあそぼうね」
消え入りそうな声で、ルーミィが言うと。
ジャンは、薄いブルーの、悲しそうな顔でうなずいた。
「うん、ルーミィちゃんが来てくれるの、待ってるよ」
そして、小さなふたりは、その小さな指で指きりげんまんをしたのだった。
 
 
報酬は今度もらいに行くことにして、その日はとりあえずシルバーリーブに戻ったわたしたち。
ダイニングのテーブルを囲みながら、クレイたちに報告をした。
「ま、うまいもん食わせてもらったし、郵便配達で走り回るよか、楽だな」
「あああ、それは羨ましいですね、はい」
昼間散々ビール飲んだくせに、ここでもジョッキを傾けているトラップが言うと、ちびちびとサラダをつついていたキットンがため息をつく。
「何事もなかったなら、よかった」
ノルは、うんうんとうなずいてくれた。
「そうだな。トラップ、パステル、それにルーミィとシロも・・・お疲れさん」
にっこりと笑うクレイ。
やっぱりクレイの笑顔を見ると、ホッとするなぁ。
さすがパーティのお母さんだよね。・・・言うと怒るけど。
「そうそう、ルーミィにね、お友達ができたのよ。モルモの男の子で、ジャンっていうんだけど・・・」
そう言って、わたしがルーミィを見ると。
彼女は、ついこないだの決心はどこへやら。わしわしといつもの様子で食事をしていた。
「あらら・・・ルーミィったら。王子さまに嫌われちゃうわよ」
呆れていうと、ルーミィはぶんぶんと首を振った。
「いいもん、おうじしゃま、きらあれても!」
「そうなの?」
「あのね、ルーミィね、はやくおおきくなりたいんら!」
ルーミィは、食べ物を口にいっぱい詰め込んだまま、元気よく言った。
「でね、おおきくなったら、じゃんのおよめさんになうの!」
わたしは、みんなと顔を見合わせた。
絵本の王子さまに憧れていたルーミィだったのに、もう本当の王子さまを見つけてしまったのね。
でも、でも・・・
モルモのジャンは・・・きっと、大きくはならない。
ルーミィが大きくなっても、ジャンはそのまま、あの大きさのままで・・・
わたしは、思わずルーミィをギュッと抱きしめた。
小さなルーミィの、小さな初恋。
たとえ、実らないものだとしても・・・大事にしてあげたいな。
「そうだね、ルーミィ」
クレイが、静かな声で言った。
「でも、ルーミィがお嫁に行ったら、おれ寂しいなぁ」
「くりぇい、さびしいのかぁ?」
目をぱちぱちさせて、ルーミィが首をかしげる。
「そうだよ。だからルーミィには、もう少し、おれたちと一緒にいて欲しいなぁ」
みんなでうんうんとうなずく。
すると、ルーミィは首をかしげたままちょっと考えた。
「んー、じゃ、ルーミィがおっきくなるまでは、いっしょにいてあげう!」
威張って胸を張るルーミィを、わたしたちは笑顔で見つめた。
 
 
ルーミィがおっきくなる頃・・・わたしたちはどうしてるんだろう?
みんなで一緒に冒険してるのか。
それとも、別々の道を歩いてるのか。
その頃には・・・わたしも、自分だけの王子さまを見つけられてるといいな。


 
****************



 
あとがき

おまたせいたしました。
皆様、あたたかいメッセージをありがとうございます。
なんとか、こうして公開することができました。

もうちょっと、ルーミィの初恋ぶりを書いてあげたかった・・・トラパス要素を押し込んだ(笑)分、ちょっとルーミィの初恋ぶりが減ってしまった・・・モルモ村へ行くまでが長い・・・などなど、心残りはいろいろありますが。

もともと、ネタとしては、トラップの初恋よりも前に上がっていました。その時点で、モルモの男の子が相手なのは決まってたんですが。
猪鹿亭での会話を書いて、王子さまと言った以上、やっぱり王子を出すか!?と散々悩みました。
でも、結局当初の案に戻しました。リチャードを相手にするっていう案も考えた(笑)

書き始める前に大筋メモを組み立てないとつらいな、と痛感した作品でした。
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60000Hit,Thanks!!

ただいまキリリク停止中

はじめに

当ブログはFQの非公式ファンサイトです。
公式各所とは一切関係ございません。

無断転載などはやめてください。

現在、引越し作業中
こちらへどうぞ

プロフィール

HN:
まいむ
性別:
女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

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