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まいむのFQ二次創作

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カップリング・パーティー潜入ミッション(3)

シルバーリーブに、マリーナからの依頼が届く。
エベリンで流行っているカップリング・パーティーで、事件が起こっているとか・・・!
そこで、マリーナとパステル、クレイとトラップが潜入捜査をすることに。
果たして、事件の真相は!?

※ここからはトラップ視点です。 





****************************************
 
 信じらんねぇ、おれがこんなに当てるなんて・・・
 嬉しいというより、むしろ呆然といった気持ちで、おれはコインの山を抱えていた。
 正直言って、おれはそんなに賭博のカンがあるわけじゃねえ。
 まわりのヤツが本気で賭ける気がなかったからか?
 おれと同じルーレットのテーブルについているのは、このカップリング・パーティーで恋人を見つけようとふらふらやってきたバカな男女ばかりだ。
 ったく、何が悲しゅうてこんなパーティーで、恋人を見つけにゃいかんのかね。
 と、ぼやきつつ、おれは次を賭けようと、一握りコインを掴み取った。
 そのときだ。
  「ああっ!すみません!!」
 バシャッ!
   おれの背中に、何かがかかった。
   がばっと振り返ると、床に落ちた無数のグラス。頭を下げるボーイ。広がるカクテルの水溜まり・・・
   どうやら、カクテルをぶっかけられたらしい。背中に、冷たいものが染みてくる。
「ってめぇ、なにしやがんでぇ!」
    ・・・と叫びかけたおれは、慌てて口をつぐんだ。
   何のためにここにいるかを思い出したということもあるが、下げていた頭を上げたのが、ボーイに扮したアンドラスだったからだ。
   うげ・・・やべぇ・・・あとで殺される。
   アンドラスは、青くなったおれをまっすぐ睨みつけると、有無を言わさぬ調子で言った。
    「お客様、申し訳ございません。新しいお召し物をご用意いたしますので、どうぞこちらへ」
   おれは、そのアンドラスに引きずられるようにして、ルーレットテーブルを後にした。
   ああ、さらば、おれのコインちゃん・・・
 
   アンドラスと共に、ボーイ用の出入り口(あのおっかないマネージャーが立っていたところだ)から堂々と裏へ出る。
   無言で前を行くアンドラスは、従業員用の控え室に入ると、素早く鍵を閉めた。
   振り返ったその、冷たーい視線。
    「お前、自分が何をやったか、わかってるな?」
   ひええ、おっかねえ!
   低く抑えたアンドラスの声に、おれは縮み上がる。
   親父のダチで、おれがガキのころから世話になってるアンドラスだ。ひよっこのおれが逆らえるわけがねえ。
    「ル、ルーレット・・・」
    「そうじゃない。お前、パステルちゃんをどうした?」
    「あっ、やべえ!あいつ、どこ行ったんだ?また迷子か!?」
   ガッターン!ガラガラガラ!
   思わず叫んだおれは、ものすごい衝撃でふっとんだ。そのまま、部屋の隅に積んであったイスの山に、頭から突っ込む。
   アンドラスに、殴られた。エンリョなしの、本気の拳骨だ。
「おーい、どうした?凄い音がしたぞ?」
   廊下にまで聞こえたんだろう、ノンビリした声と共に、ドアがノックされた。
   アンドラスが、カギを開けずに応えた。おれに向けたのとは違う、底抜けに明るい声で。
「すいませーん、仮眠とってて、イスから落っこちちまったんですよー」
「ははは、ばーかか、お前。こっちのことは任せて、ゆっくり休めよー」
   ドアの向こうの声が遠ざかる。
 アンドラスは、イスに埋もれたままのおれの首根っこをつかまえると、ドスの効いた声で言った。
  「トラップよ、おめえの大事なもんはなんだ?」
 おれは、その迫力に息を呑む。
 大事なもん・・・そ、それは・・・
 口を堅く閉じたおれを見るアンドラスの目を、一瞬憐れみがよぎる。
  「大事なら、ちゃんとそばで守ってろよ。何のためにお前は、ここにいるんだ?」
  「まさかパステルに・・・あいつに、何かあったのか!?」
  「さらわれたよ。お前が、コインに囲まれてウハウハ言ってる間にな」
  「な・・・んだって・・・」
 ぎゅうっと、心臓をつかまれた気がした。
 おれが・・・うっかりルーレットに夢中になってる間に・・・あいつが・・・
 息ができない。苦しくて、死にそうだ。
 おれはうずくまって、胸を押さえた。
  「しかし、パステルちゃんを追いかけたおかげで、隠し階段を見つけることができたんだよ。今、マリーナとクレイが向かってる」
 ちくしょう、そこに、あいつが連れ去られたってことか。
 おれは、ぐっと唇を噛む。乱暴にネクタイを緩め、濡れた上着を脱ぎ捨てると、床に叩きつけた。
  「おれも行く」
  「当然だ、馬鹿め。とっとと立て」
 アンドラスは、ニヤリと笑っておれに手を差し出した。
 その手は、分厚くて、とても熱かった。
 
 パステルがさらわれる様子を目撃したアンドラスの仲間の話によると、一緒にいた男にすすめられてドリンクを飲み、そのまま意識を失ったらしい。
 あのバカ、薬を飲まされたらしいっつう、マリーナの話を聞いてなかったのか!?
 そして男に抱えられ、ホールの壁に隠されていたドアから、姿を消したようだ。
 その奥に地下へ降りる階段があったのだが・・・
 「どうしても、その先のドアのカギが開かない。おれやマリーナも、多少のカギ開けはできるんだが・・・どうも、本格的なカギをつけてるらしいな」
 「はーん、なるほどね。よっぽど見られたくないものがあるってこったな」
 おれとアンドラスは、その隠し階段を駆け下りていた。
 ところどころにロウソクで明かりが灯されているものの、暗くて辛気臭いことこの上ない。
 パーティー会場の華やかさがウソのようだ。
 「トラップ!」
 階段の突き当たりで、クレイとマリーナがおれを見上げている。
 ふたりの背後には、固く閉ざされたドアがあった。
 マリーナはどこで仕入れたのか、ワインの瓶を。クレイは背広に隠し持っていたショートソードをかまえている。
 「・・・わりぃ」
 「お前・・・!それで、それだけで済むと思ってんのか!?もしパステルに何かあったら、どうするんだ!」
 声を押し殺したクレイが、おれの胸ぐらをつかむと、激しく揺さぶった。
 パステルを心配してのことだろう、顔色が真っ青だ。
 返す言葉もないが、今はそれどころじゃない。
 しかし、おれがクレイの手を止める前に、マリーナが口をはさんだ。
 「クレイ、トラップが一番よく分かってるわよ。そうでしょう?」
 マリーナのでかい茶色の瞳に、おれが映っている。
 そいつは、決意をみなぎらせて、うなずいた。
 「話はあとだ。そこを、どいてくれ」
 
 ポケットから七つ道具を出す。
 カギ開けに必要な針金、ペンチ、ヤスリ・・・道具を並べ、おれはドアの前にひざまずいた。
 それこそ、祈るような気持ちで。 
 後ろの3人も、物音ひとつ立てずにおれの手元を見守っている。
 ドアの中からも、何も聞こえてこない。
 おれはただ、パステルの無事を想いながら針金を合わせていった。
 
 カチリ。
 かすかな音と共に、カギが開いた。
 ほぉ~っともれるため息。
 クレイが無言で、おれたちをうながした。
 
 階段と同じく、薄暗い部屋。
 まるでダンジョンの中のような、しっとりとした空気が満ちている。
 部屋の奥に、分厚く黒いカーテンで仕切られた一角があった。
 あそこだ。
 おれは、3人に合図をすると、足音をさせずにそこへ近づき、一気にカーテンを引いた!
 そこにいたのは、意識のないままソファーにもたれ、襟元をはだけられたパステルと。
 今まさに、その首筋に口をつけようと顔を近づける、黒髪の男だった!
 「・・・☆□#☆$!?!?!?!」
 「ってめぇぇぇぇ、なにしやがんだぁっ!!」
 「うわぁぁっ、なんだ、キミたちは!」
 クレイたちの無言の叫びと。
 ブチ切れたおれの絶叫と。
 黒髪の男の慌てた声が地下室に響く。
 おれは男に飛びかかり、パステルから引き剥がした。クレイとふたりで、ヤツを押さえ込み、首筋にショートソードを当てる。
 アンドラスが上着を脱ぎ、それを受け取ったマリーナは、パステルの肩に羽織らせると、軽く頬を叩く。
 「う・・・ん・・・もう、食べられないわよぉ・・・」
 なんてノンキなやつだ!
 自分が食われるかもしれないっつー、この期に及んで、夢ん中で何食ってるんだよ!
 ゆっくりと目を開けたパステルは、あたりの様子を見て、一気に目が覚めたようだった。
 「あ、あれ・・・わたし・・・マリーナ?クレイ?アンドラス・・・トラップ・・・リューン!」
 ひとりひとりの顔を見ていったパステルが、おれたちの押さえつけている男を見て、声を高くした。
 「ご、ごめん・・・パステル・・・」
 男の言葉にハッとしたパステルが、上着に包まれた自分の肩を抱く。その上から、マリーナがしっかりと抱きしめた。
 おれは、リューンと呼ばれた男の髪をつかんで、顔を上げさせる。
 「リューン、もしかして、あなたが今まで、女の子に・・・」
 「そうだ・・・でも違うんだ!キミたちの、考えているようなことじゃない!ぼくは・・・ぼくは、血が、血が、欲しかっただけなんだ!」
 そう叫ぶ男の瞳が、紅く光った。
 
 薄い唇からのぞく真っ白な牙、暗闇で紅くなる瞳・・・
  そう、ヤツは、ヴァンパイアだったのだ。
 若い女の生き血を吸って、闇に生きる。語るまでもないほど、有名なアンデッドモンスターだ。
 相変わらずクレイのソードを向けられてはいたものの、リューンは小さなイスに座っている。おれたちも、ヤツの話を聞くために思い思いの場所に座っていた。
 「数ヶ月前の話だ。ぼくは、友人とふたりで、エベリンの外れにある古い屋敷に行った。そこは、幽霊屋敷としてここいらでは有名で・・・ほんの、肝試しのつもりだった」
 マリーナとアンドラスが、驚いた様子で顔を見合わせた。
 「それって・・・ドリアン伯爵の屋敷のこと?あそこは、昔っからヴァンパイアの噂があったのに・・・あんなところに行ったの?」
 「信じられんな、金持ちのおぼっちゃんは、やることが違う」
 リューンこそが、この豪邸の一人息子で、このパーティーの主催者だったのだ。
 「そう、ぼくたちは、そこまで真剣に受け止めていなかった。しかし、噂は本当だった。友人はぼくを置いて逃げ、ぼくはそのヴァンパイアに捕まり、血を、吸われた」
 じっと話を聞いていたパステルが、口元を押さえる。
 「それで・・・リューンも、ヴァンパイアに・・・?」
 沈痛な面持ちでうなずくリューン。
 「ヴァンパイアといっても、生粋のじゃないからね。普段は、これまでと同じ食事で済む。ただ・・・そうだな、月に一度くらい、どうしても血が欲しくなるときがあるんだ」
 「それで、パーティーで女の子を捕まえては、血を吸っていたって言うのか!?」
 声を荒げるクレイ。そりゃそうだろう、いくら不幸なヴァンパイア人間でも、そのへんの血を吸っていいとは誰も言えねえ。
 「それは・・・もちろん、悪いことをしているというのは分かっている。ただ、一度に大量にもらわなければ、相手をヴァンパイア化させずに済むんだ。父の協力もあって、こんなパーティーを開いて、若い女の子の血をもらって・・・それでこれまでは、まわりにも知られずに何とか生きてこれた」
 へえ、そういうもんなのか。
 なんせヴァンパイアの話を聞くなんて初めてだ。
   おいおい、まさか、エベリンにはこんなのが何人も紛れ込んでるんじゃねえだろうな?
 腕組みをして聞いていたマリーナが、口をはさむ。
 「でも、もう被害届が何件も出てるのよ。ずっとこんな方法を取るわけにはいかないわ」
 「そうだな。それに・・・こうして女の子を物色するようなことを、彼女は許してくれなかった。ぼくには、子供のころから将来を誓い合った・・・婚約者がいたんだよ。彼女はぼくに愛想を尽かして、去っていった」
 ・・・なんだか話がずれてきたような気もするが・・・
 「そいつには何も言わなかったのかよ?自分、ヴァンパイアになっちゃいましたーってなことを」
 「ばかね、トラップ。そんなこと、言えるわけないじゃない」
 思わず言ったおれに、パステルが突っ込んだ。
 見ると、目を真っ赤にして、おれをにらみつけている。
 あーあ、こいつ、また必要以上に感情移入してやがるな。
 自分が血を吸われそうになったこと、忘れてんじゃねーの?
 おれはむしゃくしゃした気分になって、パステルに言ってやった。
 「じゃあ、おめえがこいつの食糧になってやればぁ?一気に吸われなきゃ、ヴァンパイアにはならねえんだろ?」
 「ええええ?あ~、そ、それはちょっと・・・」
 しまった!とばかりに口をつぐむパステル。それをリューンは苦笑いして見ると、寂しそうに笑った。
 「パステルや、これまでの女の子たちには、本当に申し訳ないことをした。こうなった以上は、もう生きていくこともできないし、心残りもない。教会にでも行って、ターンアンデッドしてもらうよ」
 「そ、そんなぁ!リューン!」
 パステルが悲鳴を上げる。
 地下室に、微妙な空気が流れた。ここまで事情を聞いた以上、こいつをターンアンデッドするのも忍びない。かといって、このまま放置しておくと、こいつは餓死するだろうし。じゃあ誰かが血を提供すればいいってのかよ?
 直接被害者から依頼を受けて、今回、指揮官として動いていたマリーナは、どうしたもんかと真剣な顔で考え込んでいた。
 そのときだった。
 「わたしが、います」
 凛とした、高い声が響いた。
 開けっ放しになっていたドアから、女がひとり入ってくる。
 サラサラの長い髪を揺らした、ずいぶんと上品そうな女だ。
 「クラン!」
 驚いて立ち上がるリューン。
 もしかして、あれか?離れていった婚約者ってヤツか?
 なんなんだ、この王道な展開!
 「あなたがあまりにおかしかったから・・・別れた振りをして、ずっと様子をうかがっていたの。まさか、まさかヴァンパイアだなんて・・・」
 女の肩に手をかけ、声を震わせるリューン。
 「ごめんよ、クラン。キミにだけは、言えなかったんだ」
 「分かってる。それ以上、言わなくてもいい。でも、他の女の子の血をもらうなんて、許せないわね」
 そこでクランは顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
 「わたしの血を、リューンにあげるわ。これから、ずっと」
 「クラン・・・いいのかい?」
 「もちろんよ。ただし、わたしがおばあちゃんになって、血が不味くなっても、我慢してよね」
 「当たり前じゃないか!クラン!」
 おーおー、そこで抱き合うふたり!ってか。
 あまりのことに言葉も出ないおれの背後で、洟をすする音がした。
 案の定、パステルがぼろぼろに泣いている。マリーナもだ。
 やれやれ、女ってヤツは・・・と見ると、クレイも目を潤ませていた。
 「はいはい、んじゃ、一件落着ってことで」
 おれがパンパンを手を叩くと、リューンとクランはハッとして体を離した。
 「ったくよぉ、人騒がせなヴァンパイアだぜ」
 クレイがすかさずおれの頭をはたいた。
 「そんな言い方ないだろ、トラップ!」
 「いや、その通りだよ。本当に、ご迷惑をおかけしました」
 「ありがとうございました。わたしからも、お礼申し上げます」
 並んで頭を下げた、ヴァンパイアのリューンとその婚約者クラン。ふたりとも居場所を見つけたような、晴れ晴れとした顔をしている。
 ちぇっ、なんだかなー、当てつけてくれちゃってよぉ。
 「んじゃま、お幸せにってことで」
 「ちょっと待って」
 マリーナが、大声を出した。
 「わたし、聞いたことがあるわ。ヴァンパイア・・・その、ドリアン伯爵の屋敷にいるヴァンパイアを倒せば、きっとリューンも元の人間に戻れるはずよ」
 ・・・んだってぇぇぇ!?マリーナ、てめえ、なんつー余計なことを!
 「おめえ、おれらにヴァンパイアの相手をしろっつーのかよ!」
 涼しげな顔のマリーナ。
 「あら、誰もそんなことは言ってないけど・・・」
 「おれらみたいなヒヨッコに、ヴァンパイアみてえな高レベルアンデッドが殺れるかっつの!」
 しかし、例のごとくだ、反対してるのはおれ一人。
 アンドラスが、「有名な屋敷だから、見取り図くらいは仲間うちで手配できるぞ」と言えば。
   クレイは決意を固めた顔で、リューンに「安心してください、おれたちがなんとかしてみせます」とか言っちゃってるし。
   パステルを見ると。
   さっきまで赤くしていた目を閉じ、眠っていた。
「おい、パステル?」
   揺さぶっても起きやしねえ。
「ごめん、たぶん、まだ睡眠薬が抜け切ってないんだね。上の、控え室を使うといい。案内するよ。それに、お詫びといってはなんだけど、せっかくだからパーティーを楽しんでいって」 
  ・・・おれが言うのもなんだけど、悪びれねえ野郎だな、このおぼっちゃんは。
  クランと共に先導していくリューン。
  クレイが眠り込んだパステルを背負い、おれたちは地下室を後にした。
 
 静かな部屋。
 パーティーの喧騒も、ここまでは届かない。
 クレイたちは、おれを置いて、パーティーに行っちまった。
 「あんたは、ここでお留守番。パステルの枕元でじっくり反省してなさい」
 おれは、鼻先で、マリーナにドアを閉められた。
 ちぇ、おれがルーレットやってたおかげで、うまいことパステルが囮になったっつーのによ・・・ってこたぁ、ねーな。
 さすがに今回ばかしは、おれもマズったと思う。
 アンドラスにシメられちまったしな。
 おれの、大事なもの、か・・・
 パーティのメンバーだとか、そういうんじゃなく、それはたぶん、こいつなんだろう。
 なーんでアンドラスに気づかれてるんだか知らねーけど。
 マリーナも、気づいてるくせえのがシャクだけど。
 そっとパステルの頬に手を伸ばすと、ヤツが急にパッチリと目を開いた。
 思わず飛びのいて、素知らぬふりをする。
 「やっと起きたか」
 「あぁぁ、よく寝た。あれ?みんなは?」
 「パーティーに行った」
 おれの言葉に、首をかしげる。
 「そっか。で、トラップはなんでここにいるの?」
 「おめーのお守りだよ!・・・悪かったな。その・・・」
 おれが口ごもると、パステルはおれをにらみつけた。
 「ほんとだよね!まったくトラップ、しばらくはわたしに頭上がらないわよ!まぁ、これで一応解決したわけだしね。わたしたちもパーティー行こうよ!まだサンドイッチとか残ってるかな?」
 言葉の最後は、満面の笑顔だ。
 ったく、立ち直りが早いっつーか、基本的にノーテンキっつうか。
 ぐちぐちと根に持ったりしないところが、こいつのイイところだよな。
 「ルーミィじゃねえんだからよ、色気ねえなー、おめえ」
 おれも、いつもの軽口が自然と出る。
「・・・あれ?トラップ、そこ、どうしたの?」
 パステルに言われて、唇の横に触れた。
 かすかな痛み。
   あの、アンドラスに殴られたときの傷だ。
  「いや、なんでもねぇよ」
 
 大事なら、ちゃんとそばで守ってろよ。何のためにお前は、ここにいるんだ?
 
 「だぁぁぁぁ、書けるか!こんなこと!」
 おれは、原稿用紙を真っ二つに破った。
 言っとくが、おれはまだ一文字も書いてない。
 あのときのことを、順番に思い出してって・・・書けるかぁ、こんなもん!
 だ、だめだだめだ!
 カーッとなって、さらに原稿用紙をビリビリと破いていく。 
 「ああっ、トラップ!ひどい、せっかく途中まで書いたのに!」
 執筆中の(!?)おれに気を遣ってか、部屋を出ていたパステルが慌てて戻ってくる。
 「あーもー、サイテー!なんでわたしの書いた分まで破るかなぁ」
 パステルが原稿を拾い集めながら怒っている。
 「どっちにしても、ほんとのこと隠してるあいつらのこと考えたら、こんなん表に出せるわけねーじゃん」
 おれは頭の上で手を組んで、イスにふんぞり返る。
 結局あいつらは、今はふたりでなんとか生きているらしい。
 つまり、リューンは、クランの血を時々もらってるってことだ。
 その一方で、アンドラスがドリアン伯爵の屋敷の見取り図を手配しているとかいないとか・・・
 「あー、そっか。やだー、わたしったら。そういえばそうだよねー」
 「けっ、抜けてるよな」
 「なによぉ、トラップだってさっきまでは忘れてたでしょ!自分が書けなかった言い訳なんじゃないのぉ?」
 「んだとぉー!」
 おれたちが言い合っているところに、ルーミィとシロが駆け込んできた。
 「ぱぁーるぅ、またトリさんがきたお!」
 「こないだの、へんなトリしゃんデシ!」
 パステルとおれは、顔を見合わせる。
 げげげ、これはもしかしてもしかするのかよ?
 いよいよヴァンパイアと、対決ってか!?
 おれはパスワードを入力して、アンドラスからのメッセージを読む。
 しかし、そこに書かれていたのは・・・!
 ・・・・・・・・・・・!!
 あいつら、なんつーことを!!
 「なになに、なんて書いてあるの?」
 「なになに、なんてかいてあうの?」
 パステルたちがメッセージボードに顔を寄せてくる中、おれはすぐさまメッセージを削除した。
 「あああ、なんて書いてあったのよぉ」
 「トラップあんちゃん、消しちゃったんデシか?」
 無言でマリーナの住所を入力し、窓から投げ出すようにしてエレキテルピジョンを放した。
「トラップー!」
 「なんでもねーって!礼だよ、ただの礼!」
 「トリしゃん、またくるんだおー!」
 「気をつけていくデシ!」
 ルーミィとシロが、力強く大空へはばたくピジョンを、無邪気に見送っている。
 「お礼だったら、クレイにもちゃんと見せたかったのに・・・」
 パステルが、窓から身を乗り出してピジョンに手を振る。
 ピジョンが飛び立っていったシルバーリーブの空は、きれいに晴れ渡っていた。
 
 
 
****************************************
 
 親愛なるトラップ様へ
  
  ふたりっきりでの留守番中に、パステルちゃんに何もしてないだろうな?
 アンドラスったら、トラップにそんな甲斐性があるわけないじゃない!
 ともかく、今回は助かりました。パーティのみなさんにもよろしく。
 
                     マリーナ&アンドラスより愛をこめて
 
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プロフィール

HN:
まいむ
性別:
女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

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