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まいむのFQ二次創作

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花嫁奪還大作戦(2)~6000キリ番リク~

パステルの元に、おばあさまから手紙が届く。
病気で倒れて、パステルに会いたがってるというおばあさまの住む、ゲインズヒルに向かったパステルだったが・・・!?

※マリーナ視点→トラップ視点→パステル視点です。
 「フォーチュン・クエスト外伝 パステルの旅立ち」を一応の下敷きにしています。
  
  (1)はこちらから





    あーあ、おっかしい!
トラップも、素直にそう言えばいいのに。
必死なのを隠そうとしちゃってるところが、あいつの可愛いところよね。
それがまた、本人が気づいてないだけで、隠しきれてないっていうところがね!
ああもう、ほんっとおっかしいんだから。
 
ドレスのデザイナーってことで、ちょっとモダンな黒いワンピース。凝ったデザインのイヤリングとネックレスをつけて、髪の色はそのままで一本の三つ編みにする。
ウエディングドレスと諸々の道具を詰め込んだ大きなトランクを持ったわたしは、ヒルデさんに続いて、お屋敷に到着した馬車から降りる。
アンドラスは牧師として潜り込むために単独行動。パーティのみんなは、ゲインズヒルの宿屋に待機している。
ただし、わたしの足元にぴったりくっついて歩く、シロちゃんを除いて、ね。
うふふ、これはわたしのアイディアよ。
一見子犬にしか見えないのに、言葉のしゃべれるシロちゃんは、こういう潜入作戦にはうってつけなの。誰にも怪しまれないメッセンジャーとして、大活躍だと思うわ。
応接室に通されたわたしは、ヒルデさんの出してくれたお茶に口をつけながら、改めて部屋を見回した。
ずいぶんと歴史のありそうな、いいお屋敷。これでおばあさまが厳格なんて言ったら、ホントに物語の中の世界よね。
でも、筋書き通りに、パステルを結婚させるわけにはいかない。パステルには、ちゃんと王子さまがいるんだから!
わたしが密かに決意を固めていると、静かにドアが開いて、とうとうこのお屋敷の女主人であるパステルのおばあさまが姿をあらわした。
きれいな銀色の髪をきっちり結って、シンプルだけど上質な生地のワンピースを身にまとい、ぴしっと背筋を伸ばしたその姿。
うーん、なるほど。パステルが太刀打ちできないのもわかるわ。
わたしは、立ち上がって彼女を迎え、深々と頭を下げた。
「このたびは、お嬢さまのご成婚、おめでとうございます。わたくし、ドレスショップ・メリー、エベリン本店から参りました、マリーナと申します」
奥さまは鷹揚にうなずくと、わたしにソファにかけるように合図をした。そして、わたしの足元で、おとなしくお座りするシロちゃんに、ふと目をとめる。
「よく来てくださいました、と申し上げたいところですが・・・なんです、その犬は?」
そらきた。そうくることは予想済みよ!
「ああ、この子はシロちゃんと言いまして。結婚前の花嫁は、いろいろと思い悩むことも多いでしょう? いわゆるマリッジ・ブルーですね。そういった不安やストレスを解消するために、愛玩犬としてわたくしたち職人が同行させているものです」
奥さまは、ふうん、といった顔つきでシロちゃんを見つめた。
わたしは、シロちゃんを抱き上げて頬ずりする。
「この子、すごいんですよ! この子が同行したカップルは、最高に幸せになれるっていうジンクスがあるんです! 奥さまもお嬢さまも、運がよろしいですわ!」
なんたって、幸いの竜ホワイトドラゴンですもの。心の中でペロリと舌を出して言うと、効果てきめん!
奥さまは厳格そうにしかめられていた顔を、ほころばせた。
「そうですか。最高に、幸せに・・・」
その呟きを聞いて、わたしの胸は痛んだ。
奥さまは・・・パステルの幸せを、心から願っているんだ。
ただ、そのやり方が上手くないだけで。
奥さまの結婚は、幸せだったのかしら? 他所の町からこの町にお嫁に来て、パステルのお父さんを産んで・・・まだ彼が幼いころに、旦那さまを亡くされたらしい。それ以来、このお屋敷の主人として、がんばってこられたようだけど・・・一人息子を失って、その忘れ形見のパステルも、おばあさんの元を離れてしまって。
とても、お寂しいんじゃないかしら。
でも、ごめんなさい。
パステルは、自分で・・・ここを出て、冒険者になったのよ。
誰が王子さまなのかはさておき、やっぱり結婚相手は、自分で探し出すべきなの。
 
案内された部屋は、ヒルデさんから聞いていた通り、鍵がかけられていた。
その鍵は、奥さましか持っていないようで。廊下の隅から、ヒルデさんが心配そうにこっちを見ている。
「パステル、エベリンからドレスの職人が来てくださいましたよ」
ノックと同時に、有無を言わさずドアを開ける奥さま。
窓辺のテーブルで本を読んでいたパステルは、元気のない顔をあげてわたしを見ると・・・案の定、硬直した。
彼女の驚きが、喜びに変わらないうちに、わたしはすばやくお辞儀をする。
「パステルお嬢さま、初めまして。エベリンのドレスショップから参りました、ドレス職人のマリーナと申します」
パッパッと、わたしと足元のシロちゃんに目を走らせたパステル。それで察してくれたんだろう。目を見開いたまま、ぎこちなく口を開いた。
「わ、わたし・・・パステルといいます。えっと、は、はじめまして」
うん、目が泳いでるけど。上出来よ、パステル!
わたしはにっこり微笑むと、奥さまに向き直った。
「では早速、採寸させていただきます。奥さまは、また後ほど」
パステルの前だからだろう、さっきとは違う厳しい顔でうなずいた奥さま。
「ええ、ええ、よろしくお願いしますよ。立派な花嫁に仕立て上げてちょうだい」
そう言って、部屋を出て行った。
とたんに手を広げてわたしに駆け寄ろうとするパステルを、目で制して。
そっと耳をすませ、奥さまの足音が聞こえなくなるまで待つ。
・・・階段を降りていったみたい。もう大丈夫ね。
「パステル!」
「マリーナ、それにシロちゃんも!」
「わんデシ!」
ふたりで、声を抑えて叫ぶと、シロちゃんをサンドイッチにしてギュッと抱き合う。
「結婚させられちゃうんですって!?」
「そうなのよ! おばあさま、わたしの話を全然聞いてくれなくて・・・とにかく、危険な冒険者なんて辞めて、年頃の娘らしく結婚しなさいの一点張りで」
年頃ったって、まだ20歳にもなってないのに。孫娘が冒険者やってるのが、心配でならないのね。
わたしは苦笑した。
「でも・・・どうしてマリーナが、ここに?」
「お手伝いさんのヒルデさん、彼女がエベリンのドレスショップにお使いに行く途中で、シルバーリーブにこっそり寄ったのよ。そこで、あなたのパーティのみんなに話をしてくれたみたいで・・・で、トラップが、わたしのとこに来たのよ。パステルを連れ出すのを手伝ってくれって」
簡単に説明すると、パステルは顔を上気させて、感動した様子を見せた。
「そっか、そうだったんだ・・・ヒルデさん、おばあさまに口止めされてたはずなのに・・・」
あらら、感動するとこはそこなのね。
トラップの涙ぐましい努力が実るのは、まだまだ先みたい。
「とりあえずは、あなたは結婚を控えた花嫁よ。ささ、ドレスの用意をしましょ」
「ええ~?」
わたしがウインクすると、パステルはゲンナリした表情でうなずいた。
 
パステルに下着姿になってもらって、採寸をしながらわたしはいくつか質問をしていった。
それによると、結婚式は明後日。トラップとヒルデさんの読みどおり、このお屋敷の階段と玄関ホールを使って、催されることになったらしい。
「で、パステルは、相手には会ったの?」
「ううん、それが、写真しか見てないんだけど・・・もう、トラップそっくりでびっくりしちゃった! 思わずおばあさまに、これ、トラップじゃないんですか?なんて聞いて、睨まれちゃったもの。あれだけそっくりだったら、入れ替わっても誰も気づかないよー」
パステルが言うには、その写真は、剣術の大会での優勝記念に、撮ったものらしくて。細い試合用の剣を構え、首からは金メダルをかけ、トラップと同じ長い赤毛をさらりと肩に垂らした凛々しい美男子(!?)だったそうだ。
「ああやって見ると、トラップもあの性格さえなけりゃ、そこそこのハンサム・ボーイなんだなぁって思っちゃったわよ。なんせ、同じ顔で、キリッと写ってるんだもの」
「ああ・・・そうかもね」
わたしは、パステルの弁に苦笑いして、適当に相槌を打つ。
「ねぇ、パステル」
「なに?」
「一番肝心なことを聞いてなかったわ」
メジャーをくるりと巻き取って、下着姿のパステルの肩に上着をかけると、わたしは彼女の顔をじっと見た。
「あなた、これまでにもギアのプロポーズを断ったことがあったけど」
パステルが、ふっと顔を曇らせて、うなずく。
「今回は、どうしたいの? わたしがここまでやってきて、今更聞くのもおかしいかもしれないけど。これは重要なことだから、きちんとあなたの言葉が聞きたい」
パステルは、わたしの真剣な目に応えるように、しっかりとわたしを見返した。
「おばあさまの気持ちは嬉しいけど、今は、それを受け入れるつもりはないよ。おばあさまはわたしの話を聞いてくれないけど、相手の・・・ステアさんに会ったときに、直接、言おうと思ってた。まだ、冒険者続けたいし、自分の結婚相手は自分で見つけたいもの」
閉じ込められている間に、一人でいろいろと考えたんだろう。パステルは、よどむことなく一気に言うと、唇を噛みしめた。
わたしはパステルをギュッと抱きしめ、元気付けるように力強く言った。
「わかったわ。あなたがそういう気持ちなら、わたしはもちろんパーティのみんなも、協力を惜しまない。任せといて!」
 
用意してもらった客間で、わたしがドレスに飾りを縫い付けていると。
「ただいまデシ!」
パステルの採寸の後で、ゲインズヒルの宿屋にいるパーティのみんなに伝言に行ってもらっていたシロちゃんが、帰ってきた。
「おかえり、ご苦労様!」
シロちゃんが背負っているリュックから、トラップからの返事を取り出す。
いくらシロちゃんが言葉を話せるからといって、細かい段取りまで覚えてもらうのも大変だからね。
手紙を持ってってもらったんだ。
トラップの返事には、了解した旨が簡潔に書かれていた。
クロックス家のステア坊ちゃんは、結婚式当日の朝に、ご両親と共にやってくることが決まっている。
彼のことは、アンドラスの仲間に頼んであるし・・・準備は万端。
「トラップの様子はどうだった?」
シロちゃんに尋ねると、彼は黒い目をきらきらさせてわたしを見上げた。
「トラップあんちゃんデシか? あんちゃんはいつもと同じデシよ。ルーミィしゃんが、パステルおねーしゃんがいないから、寂しがってたデシ」
ふぅん、ルーミィちゃんが寂しがるのは当然として、トラップも寂しがってるかと思ったんだけど。
「あ、でも、ステアしゃんに会ったかどうか、聞かれたデシ。おれよりもカッコよかったか?って聞かれたんデシけど、ボク会ってないからわかんないって、答えたデシ」
なるほど、パステルがステア坊ちゃんに惚れちゃったらどうしよう、なんて思ってるのかしら?
わたしはニヤリとしながら、ドレスの仕上げに入った。
ベールも作らなきゃいけないから、トラップのこと考えてる余裕はない。
忙しいのよ、ドレス職人は!
 
 
***********************************
 
 
いよいよ、明日だ。
結婚式は、婚姻の女神をモチーフにしたステンドグラスにちょうど光が射し込む、午前中に催されることになっている。
おれは、パーティの連中が寝静まった中、ひとりマリーナからの手紙を読み返していた。
『パステルは、まだ冒険者続けたいし、自分の結婚相手は自分で見つけたいと言っています』
あいつがそう望むなら、おれたち・・・いや、おれの取る行動はただひとつだ。
パステルが、将来、誰を結婚相手に選ぶか分からなくても。
今のおれにできることはただひとつ。
この手で、奪い返す。
おれが、新郎ステア坊ちゃんになりかわって。
 
実は、おれの立てた作戦は、ここまでだった。
奪い返すだけなら簡単だが、それではあとあとパステルとバアさんの関係が、ますますこじれてしまう。だからと言って、バアさんが、はいそうですか、とパステルの結婚をあきらめるはずもない。
悩んだ挙句、結局はアンドラスに・・・相談したんだ。
エベリンで、牧師にすり替わって欲しいと頼んだときに。
するとアンドラス、相手方がクロックス家と聞いて、考え込んだ。
 「わかった。おれが何とかしてやろう」
 「ほんとかよ! 何か名案があるのか!?」
 「あるというか、なんというか・・・うむ、どうやら面白いことになりそうだな」
 「ああ? なんだよ、おかしな言い方だな」
 「うむ、まあ、おれに任せておけ。ただし、条件がひとつある」
 アンドラスは、そこで、おれの顔を覗き込んだ。ぐっと息を飲むおれ。
 「最後は、ビシッとお前が決めるんだぞ」
 「・・・? あ、ああ・・・わかった。いや、よくはわからねぇけど。わかった」
 タジタジとなるおれを満足げに見ると、アンドラスは口髭を撫でて笑ったのだった。
 
 髪をしっかりと束ね、黒いリボンで結ぶ。
 鏡の前で、蝶ネクタイの歪みを直し、全身をチェックする。
 いよいよだ。
 アンドラスは、結局どんな作戦を考えているのか、教えちゃくれなかった。
 ・・・まぁ、いいさ。やつが失敗することは、考えられないからな。
 おれにそっくりだというステア坊ちゃんに化けたおれ。
 2階から、階下を見下ろす。Yの字の、ステンドグラスに向かって右側にはクロックス家の参列者が。そして、反対側、パステルが立っている側には、キング家の参列者が待っている。
 内輪だけの、シンプルな式だ。
 それでもステンドグラスには明るい陽射しがあふれ、玄関ホールに飾られた花と共に、会場を彩っている。
 おれやパステルがスタンバイしている2階の廊下は、よほど首をひねって見ようと思わない限り、ステンドグラスを向いて座っている参列者からは見えない。
 おれは、それをいいことに、一通り会場を眺めると、パステルに視線を戻した。
 介添えとしてついているマリーナが、ウインクをする。
 パステルの表情は、幾重にも重ねられた白いベールで見えないが、おれの姿を認めて軽くうなずいたようだった。
 眩しいほど真っ白なウエディングドレス。長い手袋に包まれた手には、白い花を束ねたブーケを携えている。むき出しになった肩と胸元が、遠目にも眩しくて、おれは目をそらした。
 視線を少し下げる。踊り場では、牧師に化けたアンドラスが、ステンドグラスを背にして立っていた。
 おい、ほんとに大丈夫なんだろうな、アンドラス。
 神妙な顔のアンドラスに、心の中で呼びかけると。それが聞こえたかのようにアンドラスはおれのほうを見た。
 ニヤリと口髭を歪めると、胸に手を置いて牧師風の会釈をしてみせる。
 ちぇっ、自分だけが何でも知ってるみたいな顔しやがって。
 おれが肩をすくめてみせると、それを咎めるように軽く睨まれた。
 「では、ただいまより、クロックス家、キング家の婚礼の儀を執り行います」
 朗々としたアンドラスの声が、ホールに響く。
 おれは、軽く深呼吸をした。
「一同、起立」
がたがたと、参列者が腰を浮かす。
「新郎、新婦のご入場です。温かい拍手でお迎えください」
おれは、背筋を伸ばして一歩、足を踏み出した。
 
階段へと、すすみ・・・
ゆっくりと、時間をかけて一歩ずつ階段を降りる。
 
正面に、パステルの姿。
緊張で身体を硬くして、慣れないハイヒールで一歩一歩慎重に階段を降りてくる。
 
踊り場で、おれたちは立ち止まった。
マリーナが、パステルのドレスの裾を直しているが、おれの目にはほとんど入らない。
 
茶化したりする余裕もないくらい、彼女はきれいだった。
ベールの下から、引き結ばれた口元が覗いている。
薄ピンクの紅をひかれたそこは、全身真っ白な中で、いっそう鮮やかに映る。
 
「新郎、ステア。あなたは、婚姻の女神の名の下に、永遠の愛を誓いますか」
クッ、とおれの喉が鳴った。
落ち着け、おれは・・・ステア・ブーツじゃない。
今は、ステア・クロックスに化けてる、トラップなんだ。
「・・・誓います」
ニッコリとうなずく牧師、アンドラス。
「では、新婦、パステル。あなたは、婚姻の女神の名の下に、永遠の愛を誓いますか」
こいつは、今どんな気持ちでここにいるんだろう。
目だけで、隣に立つパステルを見ると、彼女は手に持ったブーケを、折れそうなほど強く握りしめていた。
ずきん。
今、おまえは、どんな気持ちで、ここにいるんだ・・・?
この結婚話がどうなるか、不安でならないのか。
ただただ、緊張しているだけなのか。
それとも、少しでも、少しでも・・・こうして、ここにおれとふたりで並んで立っていることを・・・
「・・・・・・誓います」
アンドラスはおれのときと同じようにニッコリとうなずくと、大きく両手を広げた。
「新しく将来を誓い合ったふたりに、祝福を授けましょう」
おれたちの背後の列席者から、拍手が起きる。
「それでは、誓いのキスを」
 
へ?
今、なんつった?
 
思わず表情が素に戻る。
アンドラスの顔を見ると、やつは神妙な牧師の顔つきのまま、目だけでニヤリと笑った。
・・・っのやろう、そういうつもりだったのかよ!
まさか、マリーナも・・・パッと見ると、知らなかったようで。パステルの足元に控えていた彼女は、目を丸くしていたが、おれと目が合うと、ウインクして唇を動かした。
てめぇ、チャーンス!!!とか言ってんじゃねぇ!!
「さ、誓いのキスを」
アンドラスがうながす。
・・・ふざけんな―――! 
なんで、こんなとこで、こんな状況で・・・キス、しなきゃならないんだよ!
キスなんてしなくたって、結婚式くらいできんだろーが! それくらい上手いこと進められねぇで、どうすんだよ! 
そうか・・・てめぇ、アンドラス、最初っからそのつもりだったな!?
おれがイライラとアンドラスを睨みつけていると、震えるささやき声がおれの耳を打った。
「・・・トラップ・・・」
見ると、パステルが、声と同じく震える唇で、おれの名前を呼んでいた。
心持ち顔を上げたのだろう、ベールの裾が少し上がって。いつもおれが低い低いとからかう、彼女の鼻筋までが見える。
・・・いいのかよ。おまえは、それで。
よくはないだろう。でも、ここで結婚式をストップさせるわけにもいかないのは、確かだ。
おれは、覚悟を決めた。
そっと、パステルのベールに手をかけ、背中へと落とした。
パステルの顔が露わになって、列席者から、大きなどよめきが起こる。
・・・ああ、おまえってやつは・・・
つけマツゲでもしてるのか、いつもよりもカールした長いマツゲの下から、パステルがおれを見つめる。
不安に揺れる瞳の中にも、強い覚悟があって。紅潮した頬は引きつってはいたけれど。
ピンク色の唇を、おれを待ち受けるように、軽く尖らせて。
・・・ああ、このまま時が止まってしまえばいい・・・
でも、ダメだ。すべては、今を乗り越えてから。
パステルを奪い返したおれが、このキスから・・・何を始めるのかも。
 
おれは、震えるパステルの肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけた。
パステルが、静かに瞳を閉じる。
 
「ちょぉーっと、待ったぁぁぁぁ―――!!」
甲高い絶叫が、ホールに響いた。
声の主は、玄関から飛び込んできた・・・真っ白なドレスを着た、女だった。
 
「ステア! ステア!!」
その女の元に、クロックス家の列席者が駆け寄る。
ちょ、ちょっと待てよ。ステア!? ・・・パステルの、結婚相手!!??
燃えるような赤毛をキリッと結い上げ、白いベールは手に持ったまま。ぜぇぜぇと荒い息をつくその女は・・・確かに、おれにそっくりだった。
「何よ、あんた! あたしの新郎、盗るんじゃないわよ!」
ステアは、ビシッとパステルを指差して、叫ぶ。
展開にまったくついていけず、呆然と立ち尽くす、おれとパステル。
おれたちをほったらかしにしたまま、階下ではご両家の口論が始まった。
「新婦がステアじゃないって、どういうことです? あの女がベールを取って初めて、違うって気づいたんですよ。キングさん、これは一体どういうことなんです?」
ステアの両親が、パステルのバアさんに詰め寄った。
「どういうことと言われましても・・・ステアさんは・・・男性ではなかったのですか!? 見せていただいた写真も、武術大会で優勝したときの写真で・・・」
バアさんも負けちゃいない。
「なんてことおっしゃるんですか。うちのステアは、女です! そりゃあ、まぁ、武術大会に出るのが趣味だったり、そこらへんの男性よりも男勝りなところはありますけど・・・」
ふん!と腕組みをして仁王立ちするステア。
「それより、そちらこそ! 冒険者として各地で大活躍する孫、なんておっしゃるから、てっきり男性だと思って、一人娘のステアを託そうと・・・」
「い、いえ、それは・・・」
気まずそうに目を泳がすバアさん。
そんな様子を横目に、おれはアンドラスに詰め寄った。
「てめえ、どこまで知ってたんだよ?」
アンドラスは、すっかり普段の気のいい親父の顔に戻って言う。
「クロックス家の令嬢は、ある筋では有名なんだよ。美しい赤毛をなびかせて、武術大会ではばったばったと男をなぎ倒していくってね。おまえから、クロックス家のステアって聞いたときに、ぴんと来たんだ」
おれはがっくりと肩を落とした。
なんでえ、じゃあ、最初っからばたばたする必要なんて、なかったんじゃねーか。
「でも、誓いのキス前に露見するとはなぁ。残念だったなぁ。さすがに、ウチのひよわな仲間じゃ、ステア嬢ちゃんを押さえておけなかったか。あともうちょっとだったのになぁ、トラップ?」
「・・・・・・」
おれが額に青スジ立てて詰め寄ろうとしたその横で、パステルがくたくたとへたりこんだ。
「お、おい!」
その腕を、おれは慌てて掴む。
パステルは、さっきまでの引き締まった表情はどこへやら、いつものようにヘラッと笑っておれを見上げる。
「ご、ごめん。安心したら、力抜けちゃって」
「・・・だな!」
やれやれと笑い合うおれたちに、バアさんの厳しい声が飛んだ。
「ちょっとお待ちなさい。でしたら、そこの新郎は誰なんです?」
 
 
***********************************
 
 
 
わたしたちは、広いダイニングで、揃ってテーブルを囲んだ。
キング家、クロックス家。そして、お屋敷の外で待機していたパーティのみんなも呼んで。
「まったく・・・誤解したまま話をすすめたのは、わたしの落ち度ではありますが、一体なんなんですか、あなたたちは。わたしを騙して、いえ、わたしだけでなくステアお嬢さんを閉じ込めるような真似までして・・・!」
ほつれかけた髪を押さえて、おばあさまがトラップを睨みつける。
ムッとして口を開きかけるトラップを制したのは、アンドラスとマリーナだった。
「申し訳ありません、奥さま」
「このようなやり方になってしまったことは謝罪します。でも、それは奥さまも同じではありませんか?」
「なんです?」
「パステルの意志も聞かず、強引に結婚話をすすめたことですわ。・・・ほら、パステル」
マリーナに促されて、おばあさまのそばへ行った。
イスに座ったまま、わたしを見上げるおばあさま。
わたしは床に膝をついて、おばあさまの目線に合わせた。
「おばあさま、わたし、まだ冒険を続けたいんです。結婚相手も、自分で決めたい。・・・おばあさまが、わたしのことを心配してくれてるのは分かってます。おとうさんが死んでしまったのも、おかあさんのせいにするほどすごく辛かったことも、今なら分かる気がします。でも、・・・わたし、わたしは・・・」
ふぅ、とおばあさまはため息をついた。
「別に、あなたが心配なわけじゃありませんよ。ただ、年頃の娘が結婚もせず、汚い格好をして冒険をしてるなんて、キング家としては外聞が・・・」
「やーねぇ、おばあちゃん! 年頃ったって、パステルちゃんは若いじゃない。まだまだこれからよ。このあたしだって、まだまだなんだから!」
ステアがおばあさまを笑い飛ばす。そのステアを押さえつけた彼女の両親が、とりなすように言った。
「そうですよ、冒険者、素晴らしいじゃないですか。実際彼女は、あちこちで活躍されてるんでしょう? うちのステアも、冒険者として世の中の役に立ってくれれば、と何度思ったことか」
「やぁよ、あたしは武術大会でいっぱい優勝して、いつか優しい王子様と結婚して、守ってあげるのが夢なんだから!」
「誰があなたみたいなお転婆をもらってくれるもんですか!」
ステアは、両親に頭を小突かれてしゅんと黙り込む。
それを部屋の隅で、笑いながら見ていたヒルデさんが、そっとおばあさまの元へやってきた。
「奥さま、パステルお嬢さんは、いいお仲間に恵まれております。わたくしたちは、このお屋敷から、お嬢さんの無事と幸せを、祈りましょう」
「いいお仲間ですって?」
おばあさまが、パーティのみんなの顔を順番に見て・・・最後に、トラップに視線を固定した。
おばあさまは、ステアになりかわったトラップを、パーティのリーダーだと思ってるみたい。
や、ダメダメ。ここであのトラップがなんか言ったら、絶対おばあさまはパーティの仲間を認めてくれないって!
思わずクレイに視線を向けると、クレイはなぜかじっとトラップを見守っていた。
うそ、いいの? トラップのことだもの、おばあさまに、無礼なこと言うに決まってるじゃない!
「あんたは、冒険者のこと、危険だ危険だって言うけどな」
わたしがハラハラする前で、トラップは、ぶすっとした顔で、おばあさまを睨むように見返した。
「パステルのことは、絶対におれが守る」
「え?」
「だって、そうだろ。おれらは、一蓮托生っつぅか・・・パーティの仲間なんだ。みんな、それくらいの覚悟はできてる」
ああー、そっか。びっくりした、“おれらが守る”ってことね。
ちょっとドキッとしちゃったわよ。
「だからあんたは、そんなに心配しなくて、いいんだよ」
ぶっきらぼうな言い方だったけど、トラップの声は真剣で。
その言葉に賛成するように、パーティのみんなが強くうなずいた。
それを見たおばあさまは、深い深ぁいため息をついて、皺の刻まれた眉間に手をやった。
「・・・そうですね。もう、年寄りのおせっかいは、やめておくことにしましょう」
そして、跪いているわたしの頭に、そっと手を置いた。
それが、おばあさまとわたしが触れ合った、最初の瞬間だったんだ。
 
「パステル、たまには、顔を見せに来なさい。ヒルデも、他の使用人たちも、ジョセフの娘であるあなたのことを、大切に思ってるんですから」
それを聞いたヒルデさんがふき出す。
「なんですか」
じろりと見るおばあさま。
「い、いいえ。奥さまはよろしいんですか?」
「わたしは別に、かまいませんよ」
そう言うと、おばあさまはわたしをちらりと見て、さっさとダイニングルームを出て行ってしまった。
素直じゃないなぁ、おばあさま。
わたしは、思わず笑みをもらした。
でも、もう大丈夫。
厳しいおばあさまだけど・・・相手が女の子だと知らずに結婚話をすすめちゃうなんて、おっちょこちょいなところが可愛いなんて、思ったりして。
ちょっと、身近に思えるようになった。
「よし、みんな。シルバーリーブに帰ろっか!」
わたしが笑いかけると、ノルに抱っこされて心配そうにしていたルーミィが飛びついてきた。
「ぱぁーる、おかえり!」
 
 
 
あれから、クエストから帰ってきたときは、真っ先におばあさまに手紙を書くようにしている。さすがに、クエストに出る前にそんな余裕はないからね、事後報告になっちゃってるんだけど。
そうすると。ご苦労様、っていう感じの、簡単な返信をしてくれるようになったんだ。
今は、心配しながらも、応援してくれてるみたい。
 
今回の結婚騒動で、ずいぶんとまわりに迷惑かけちゃったけど・・・結果的にはおばあさまと歩み寄れて、よかったと思うんだ。
ウエディングドレス、着ちゃったし。
鏡に映った自分を見て、思わず涙しちゃったわよ。
不思議なもんだよね、ウエディングドレス着ると、なんだか気持ちが盛り上がっちゃうんだから!
そう、誓いのキスも・・・
今考えてみれば、その場の雰囲気に流されてたんだとしか、思えないけど。
あのときは、そのままキスしちゃってもいいかもって、思ったんだ。
トラップには、絶対ナイショだよ。ウエディングドレスに操られたんだとか、感情移入しすぎだとか、笑われるに決まってるもん!
そうそう、トラップだって悪いんだよ。あんな演技するんだから。
いつもだったら、どんな真剣なときでも、目だけは面白そうに笑ってるようなやつなのに・・・
わたしのベールを持ち上げたときの、トラップの目が忘れられない。
つらそうな、悲しそうな目で。
幸せな新郎の演技なのに。
どうして、あんな、目・・・
 
「おーい、パステル、パステルちゃーん?」
呼ばれてハッとすると、そのトラップがニヤニヤとわたしの顔を覗き込んでいた。
「ああ、びっくりした。なに?」
「ほい、手紙」
ぽん、と封筒を渡された。
「サンキュ」
「誰から?」
「うーんと、あ、おばあさまからよ」
いつものシンプルな封筒には、わたしの名前だけでなく、『皆様へ』という一言が書き添えられていて。そんなところからも、おばあさまの想いが伝わってくる。
「そっか」
「ねえ、トラップ」
わたしは、封筒を膝の上において、部屋を出て行こうとするトラップを呼び止めた。
「ん?」
足を止めて振り返るトラップ。その表情は、逆光で見えなかったけど。
「・・・ううん、なんでもない」
わたしは、首を振った。
 
結局聞けなかった、あの目のわけは。


 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 
あとがき

  こんなに長くなるはずじゃなかったんです。でも、おばあさまを悪者にせず、パステルをただ奪うだけでな く、丸くおさめようと思ったら、なんだかこんなんになってしまいました。
   ツッコミどころ満載。シロちゃん同行した意味ないじゃん! パーティの面々、なにもしてないじゃん! マリーナ視点もたいして意味ないじゃん!(でも、おばあさまのことを第三者の目から書きたかったので、これはこれでしょうがない) ステアはほんとに必要だったのかとか、屋敷内の様子が分かりにくいとか、いろいろ出てくるもんですね。
 しかし、これを書いて確信したことがひとつ。わたし、ブラック・アンドラスとマリーナのコンビが、好きだわ・・・
 と、あと課題もひとつ。いずれは、FQで3人称をやらなきゃいけないかな、と。こうコロコロ視点を変えるってのも、どうかと思って。これを書くにあたって、いっそのこと脚本形式にしようかとも思ったくらいだったんです。
 今回は、これでよかったと思ってますが・・・力尽きた。

 リク主のジョーカーさんへ。
 ・・・いかがでしたでしょうか・・・
 素晴らしいリクエストをありがとうございました。このリクのおかげで、ひとつステップアップできたのではないか、と思ってます。
 あまりトラップがビシッと決められず・・・申し訳ないです。
 感想いただけたら、嬉しいです。  
 
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当ブログはFQの非公式ファンサイトです。
公式各所とは一切関係ございません。

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HN:
まいむ
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女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

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