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まいむのFQ二次創作

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花嫁奪還大作戦(1)~6000キリ番リク~

パステルの元に、おばあさまから手紙が届く。
病気で倒れて、パステルに会いたがってるというおばあさまの住む、ゲインズヒルに向かったパステルだったが・・・!?

※パステル視点→トラップ視点です。
 「フォーチュン・クエスト外伝 パステルの旅立ち」を一応の下敷きにしています。





  「ぱぁーるぅ、ぱーるぅ、おてがみがきたお!」
自分の部屋で原稿を書いていたわたしの元に、ルーミィが駆け込んできた。
小さな手に、シンプルな白い封筒を持っている。
「わたしに?」
「しょおしょお、のりゅが、ぱぁーるにもっていけって」
誰からだろう?
封筒の表書きを見ると、とんでもない達筆で、わたしの名前が書いてあった。
その下を見ると・・・
ウッと思わず、息を飲む。
「だぁーれ?」
わたしの表情の変化を感じ取ったんだろう、ルーミィが心配そうに覗き込んでくる。
そのシルバーブロンドを軽く撫で、わたしはゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、丁寧に封を切った。
表書きにあったのは、ゲインズヒルという地名と・・・おばあさまの、名前だったから。
 
おばあさまというのは、わたしのおとうさんの母親にあたる人で。
正直言って、わたしは・・・苦手だ。
何故かというと、おばあさまは、おとうさんとおかあさんの結婚を快く思っていなかったらしくて。おかあさんがひどいことを言われて、泣いてたのを知ってるから。
それに、わたしが孤児になってしまって、一度おばあさまの元へ行ったときのこともある。母のことを悪く言われて、その上ビシバシしつけますからね、なんて言われて・・・結局わたしは、おばあさまの家を飛び出し、冒険者になる道を選んだんだ。
それ以来、会っていないおばあさま。
手紙を出したり、小説を連載している冒険時代を送ったりはしていたけど。おばあさまから手紙が来るなんて、初めてのことだから、どうしても緊張してしまう。
わたしを、少しでも認めてくれたってことかもしれないけど。
もし、何か、悪い知らせだったらどうしよう・・・!
どきどきしながら、わたしは封を切った。
 
その夜、うなだれて食卓についたわたし。
今日の食事当番はキットンで、恒例のキノコ鍋が、ダイニングテーブルの真ん中でいいにおいを放っている。
でも・・・とてもじゃないけど、食欲がわかなかった。
「おめー、なに暗ぇ顔してんだよ。メシがまずくなるじゃねーか」
トラップに小突かれても、返事ができない。
顔を上げて口を開いても、言葉が出てこなくて。
そんなわたしを薄気味悪そうに眺めたトラップは、クレイに向かって助けを求めるように肩をすくめた。
「パステル、話してごらんよ。おばあさまから手紙が来たんだって? なんて書いてあったんだい」
クレイは、優しい鳶色の瞳でわたしを見つめた。
その隣では、ノルがうなずいている。くいしんぼのルーミィやシロちゃんも、食事に手をつけずにわたしの言葉を待っていた。
キットンは、温かい淹れたてのお茶をずいっと差し出して。
「今日は、パステルのためにリラックス効果のあるお茶にしましたから。ま、一口飲んでみて下さい」
ううう・・・みんな、ありがとう。
キットンのお茶は、不気味な緑色だったけど・・・ふわっと優しい甘みがあって。本当に、リラックスした気持ちになった。
わたしは、意を決して口を開いた。
声が震える。
「あのね、おばあさまが・・・おばあさまが、倒れてしまわれたんですって」
 
手紙には、おばあさまが、風邪をこじらせてしばらく寝込んだ、と書かれていた。
もちろん、直筆なわけだから、今はだいぶ体も落ち着いているようだけど・・・自分ももう長くはないだろうから、わたしに、一度顔を見せに来て欲しいって。
あの厳格で、わたしに冷たく当たったあのおばあさまが、そんなことを言うなんて・・・よっぽど気が弱くなってるんだろう。
わたしにとって血縁者がおばあさま一人であるように、おばあさまにとっても家族はわたし一人だ。
もちろん、おばあさまの大きなお屋敷には、ヒルデさんというお手伝いさんの他にも、いっぱい人がいるんだけど・・・やっぱり、寂しいのかもしれない。
わたしには、家族同然のパーティのみんながいてくれて、こんなに心配してくれて。寂しいと思ったことなんてほとんどなかったけど・・・
 
「だから、一度、ゲインズヒルのおばあさまのところへ、行こうと思うの」
わたしがそう締めくくると、みんなはそれぞれにうなずいた。
「そうだな。もう何年も会ってないんだろ? お見舞いがてら、行ったほうがいい」
「ばーちゃん、かわいそうだお。イタイイタイなのかぁ?」
「ルーミィしゃん、ケガじゃなくて、ビョウキデシ」
「体が弱ってるときは、誰でも寂しくなる」
「そうですね。わたしの特製元気ドリンクを持っていくといいですよ!」
「しかし、悪名高い厳格なバアさんか・・・あれだろ、呪われた城のクエストで、ティラリスが一番怖ぇもんに化けたときに、おめぇ、そのバアさんを見ちまったんだろ?・・・いてっ、なにすんだよ!」
クレイが、トラップの頭をどついた。
あはは、そうそう!
おなじみド迫力ボンテージ美女、レディ・グレイス。彼女は、ティラリスっていうアンデッドなんだよね。呪われた城のクエストで初めて出会ったとき、わたしたちは彼女を怒らせちゃって。で、ティラリスの特殊能力・・・それぞれの一番恐れているものの幻覚を見せる・・・っていうのをやられちゃったんだ。
そのときわたしが見たのが、なんと! 頭がナメクジトッピング・ショートケーキの、おばあさまの姿だったんだよね。
今はこうして笑い話にできるようになったけど、あのときはショックだったなぁ。
トラップ、よく覚えてたなぁ。
そういうトラップは、じーちゃんの幻を見て。「ひぇー、お助けぇ!」なんて言ってたっけ。
「今でも恐くないわけじゃないけど・・・おばあさまのほうから会いたいって言ってくれてるわけだし。おばあさまが元気ないなら、会いに行って、元気付けてあげたいじゃない?」
手紙を読んだときは、おばあさまが倒れたっていうショックもあって、ものすごく不安だったけど。こうしてみんなに話をしたら、もりもり元気が出てきた!
わたしがニッコリ笑うと、みんなもほっとしたみたい。
「ちょっと行ってくるから、みんなはウチで待っててね」

 
そうして一人で旅立ったわたし。
さすがに、乗合馬車に乗るときはルーミィがゴネたけど・・・いくらルーミィでも、おばあさまのところへ一緒に連れて行くわけにはいかないからね。こればっかりは仕方ない。
一人で乗合馬車に揺られていると、14歳の自分に帰っていく気がした。
怒りに任せておばあさまの家を飛び出して・・・馬車の中で悔し涙を流したっけ。
これから自分がどうすればいいのかも分からなくて。
でも、あのおばあさまと暮らしていく気にはなれなくて。
そんなとき、わたしに声をかけたのが、一緒に馬車に乗っていた、カシアス・ロッパという男の子だった。
年は、あのときのわたしよりひとつ上の15歳。冒険者になりたての、気さくな子だった。
考えてみれば、あの子に会ってなかったら、今のわたしはなかったんだろうな。
カシアスから話を聞いて、冒険者になろうと決心したわたし。
そう、あれはまさしく人生が変わった瞬間だったんだ。
カシアス、元気に冒険者やってるのかな? 
ものすごい勇者になってたりして! それとも、わたしたちと似たようなヒヨッコ冒険者かな?
 
 そんなことを考えているうちに、馬車はゲインズヒルに着いた。
朝早くにシルバーリーブを出たのに、もう夕暮れ時だ。
・・・こんなことなら、どこかで一泊して、明るいうちに着いたほうがよかったかも。
なんて言ってても、着いちゃったものは仕方がない。
わたしは記憶を辿って、ライラ荘と呼ばれるおばあさまのお屋敷へ向かって歩き出した。
 
でも、でも・・・ライラ荘に着いたのは、すっかり真っ暗になってからだった。
たははー、わたしったら、自分が方向音痴だってこと、すっかり忘れてたんだよね!
何年も前に来たっきり、しかもそのときは迎えの馬車に乗っていたんだから、わたしじゃなくたって無理・・・だよね?
こっちじゃない、あっちじゃないと行ったり来たりしてたわたしを見かねて・・・八百屋のおばさんが声をかけてくれた。
ライラ荘なら、これから近くまで配達に行くから、乗っていくといいってね。
カボチャやコンダイなどの野菜と一緒に、馬車の荷台で揺られる気分は、なんとも情けなかったけど。
「ほらごらん、あれがライラ荘だよ」
野菜の配達先の、賑やかな居酒屋の前で馬車を停めたおばさんは、左手のほうを指差して教えてくれた。
ほんとだ! 街灯の向こうに、見覚えのある古い大きなお屋敷が見える。
「ありがとうございます! ところで、おばあさま・・・じゃなくて、ライラ荘の奥さまの病気の具合は、よくなったんですか? ご存知ありません?」
「ええ? 病気なのかい? いやぁ、あそこの人は滅多に町に出てこないから、知らないねぇ」
「・・・そうですか・・・」
確かに、おばあさまが町の市場やら公園やらを歩いてる姿は想像もつかない。
わたしは、おばさんに手を振って、ライラ荘へと歩き出した。
 
「あらあらまぁまぁ、パステルお嬢さまじゃありませんか!」
わたしを出迎えてくれたのは、懐かしいヒルデさんだ。
おとうさんが、おかあさんと結婚する前、まだこのお屋敷で生活していた頃から、ここで住み込みで働いているというお手伝いさんだ。
孤児になったあのとき、わたしを優しく出迎えてくれたのも、ヒルデさんだった。
「どうも、ごぶさたしてます」
それにしても、ヒルデさんの様子を見ると、まったく暗い感じがない。
おばあさまは、もうじゅうぶんお元気なのかしら?
ヒルデさんは、にこにこしながらわたしの手を引いて、応接室へ案内してくれた。
「突然、どうなさったんです? 連絡してもらえれば、お迎えに行きましたのに」
そこで、何かがおかしいと気づいたわたし。
「突然って・・・こないだ、おばあさまから、風邪で倒れて寝込んでるっていうお手紙をいただいたんですよ。それで、一度わたしに顔を見せに来て欲しいって・・・」
「まぁ、奥さまがそんなことを? お元気ですよ。風邪なんて、最近は召されてません」と、驚くヒルデさん。
・・・これって、どういうこと?
わたしとヒルデさんが首をひねっていると、静かに応接室の扉が開いた。
「ヒルデ、いいんです」
微かに皺枯れた、ハスキーな声。
ヒルデさんとわたしは、あわてて立ち上がって頭を下げた。
「奥さま! 申し訳ありません、真っ先にお知らせしなくてはならなかったのに・・・」
「おばあさま! お久しぶりです」
おばあさまは、ニコリともせずに、わたしを苦々しく上から下まで眺め回した。
「まったく、あなたという人は。いい年頃だというのに、冒険冒険とホコリや泥にまみれてばかりで」
思わず自分の服装を見たけど、一応、一張羅のワンピースだ。さすがに泥はついていない。
あ、そっかそっか、冒険者やってることを、そうやって例えておっしゃってるんだな。
「命の危険だってついてまわるというのに・・・まったく、どう育てたら、こんな娘になってしまうんだか」
おばあさまはそこで一息つくと、しっかりと私の目を見て言った。
「あなたを呼んだのは、他でもありません。わたしの孫娘として、わたしの決めた者と結婚をしてもらいます。冒険者なんて危険なこと、辞めてお仕舞いなさい」
へ?
思わずぽかんと口を開けてしまったわたし。
そのまま言葉も出ないわたしを一瞥すると、おばあさまはさっさと応接室を出て行ってしまった。
え、え、えええええ―――!!
冒険者を辞めて、け、結婚ですって!?
 
結局その夜は、もうおばあさまは話をさせてくれなくて。
明日ゆっくり話をすればいいとヒルデさんに言われて、客室をひとつ貸してもらった。
荷物を置いて、一通りチェックすると。トイレもバスルームもある、リッチな客室だった。
ベッドももちろんふかふか。ワンピースが傷まないように気をつけながら、仰向けに寝転ぶと、いつも一緒にいるルーミィやシロちゃんが恋しくなった。
そりゃ、わたしだって過去にはプロポーズされたこともあったよ。
そのときは断ってしまったけど、いつか、結婚して、ステキな旦那様とあたたかい家庭を築いていきたいとは思ってる。
でもそれはいつかの話であって、こんな唐突に言われたって、困る! 断然、困る!
あのとき、まだ冒険者続けて行こうって、決めたんだもん。
しかも、おばあさまの決めた人と結婚しろって!? それって、政略結婚みたいじゃん!
うわー、ダメ、ダメだって!
わたしが一人で頭をかきむしったり、うろうろと部屋の中を歩き回ったりしていると。
コンコン、と控えめなノックの音がした。
「はい?」
ドアのところまで行って開けると、そこには申し訳なさそうな顔のヒルデさんが、ワゴンを押して立っていた。
「申し訳ありませんねぇ、パステルお嬢さま。奥さまが、お食事は、お部屋にお持ちするようにとおっしゃるもんですから」
ワゴンの上には、なんともゴージャスな食事が。
緊張してたから、おなかがすいてるのも忘れてたんだよね。美味しそうな匂いを嗅いだとたん、おなかがぐぅぅ~と主張した。
うわ、恥ずかしー!
「あ、ありがとうございます・・・」
わたしが真っ赤になって、おなかを押さえると、ヒルデさんはニッコリと笑った。
「お食事召し上がって、ゆっくりお休みになって。それで、明日奥さまとお話なさるといいですよ。奥さまだって、お嬢さまが嫌がるようなことを無理強いはなさらないと思いますから」
はぁ・・・そうだといいんだけど。
さっきのおばあさまのキビシそうな顔は、とてもそんな雰囲気じゃなかったぞ。
わたしは、あいまいに笑ってワゴンを受け取った。
う~ん、それにしても、美味しそう!
お皿を、窓辺の丸テーブルに並べていく。
エンドウのポタージュスープ、香草とナッツのサラダ、こんがり焼いたステーキには温野菜が添えられていて、カゴに盛られたパンとバターもたっぷりだ。銀色のポットには熱々のコーヒーと、デザートには、クリーム付きのシフォンケーキまである。
おなかもすいてたから、わたしは夢中で食べてたんだけど。
途中で、なんだか寂しくなった。
ひとりでする食事って、あんまり美味しくない。パーティのみんなと一緒だと、うるさくてうるさくて、食べた気がしない!なんて思ってたけど。
これが美味しいとか、わたしにもちょうだいとか言うことで、みんなで美味しさをわけあってるんだよね。で、それによってまた美味しさが倍増するっていうか・・・
パンをちぎりながら、わたしはみんなとの食事風景を思い浮かべた。
「ぱーるぅ、このすーぷ、おいしいお!」
「うわわ、こらルーミィ、スプーンを振り回すんじゃない!」
「おい、ノル、そこのドレッシング取ってくれ」
「トラップ、これ、ソースだ」
「ドレッシングは、あっちデシよ」
「おおおお、このステーキはうまいですね! この焼き加減といい、塩加減といい・・・」
今頃、みんなでテーブルを囲んで食事してるんだろうな。
そこに・・・わたしだけいない。
ポタリと涙が落ちた。
ううう、いけないいけない! 
まだ決まったわけじゃないんだから! 明日きちんとおばあさまにお話をして、まだわたしが冒険者を辞める気がないこと、結婚もまだしないことを、わかっていただかなくちゃ!
 
 
「う~ん、ルーミィ・・・シロちゃん・・・、・・・、・・・!?」
ガバッと跳ね起きる。
自分の寝言で目が覚めたわたし。
そうだった、ここはおばあさまの家で。わたしはおばあさまに、うまいこと呼び出されて、結婚させられそうになってるんだった!
一晩寝たら忘れるなんて、わたしもノンキだよなぁ・・・
窓辺に立って、大きく伸びをする。
あのおばあさまを説得するなんて、わたしにできるんだろうか。
ううん、でもがんばらなきゃ! 
ふと見ると、昨日の食事のお皿を載せたワゴンがそのままだった。
そっか、キッチンはどこか分からないけど、せめて廊下に出しておくべきだったかも。
そう思って、ドアを開けようとして・・・血の気が引いた。
あ、開かない!?
やだな、壊れちゃったの? 
ガチャガチャと取っ手を回してみると、何かひっかかるような違和感があった。
慌てて取っ手を見てみても、この、部屋の内側には、スイッチも鍵穴も何もついていない。
ってことは・・・うそ、まさか、そこまでするの!?
閉じ込められたって、こと!?
やだぁぁ―――!!! わたし、このまま、結婚させられちゃうの!?
 
 
***********************************
 
 
「もう、5日になりますねぇ」
「あぁん? 何が?」
ダイニングのテーブルで、モンスターポケットミニ図鑑をノンビリとめくっていたキットンが、あくび混じりにおれに言う。
「パステルが、おばあさまの元に向かってから、ですよ」
「・・・ああ」
まだ、5日しか経ってないのか。
パステルが、唯一の肉親の祖母の家に行ってから、おれは腑抜けた日々を送っていた。
とは言っても、あからさまにぐったりするわけにもいかない。むしろ、動いていたほうが気が楽だから、郵便配達のバイトに精を出していたんだが・・・
今日は、休配日だからしょうがない。
あいつのいない家は、なんだか活気がなくて、まるでヤドカリの置いていった抜け殻のようだ。
活気がないといえば、ルーミィも元気がない。
いつも一緒のシロ、クレイやノルも代わる代わる遊び相手になっているものの、やっぱりパステルがいないと、いつもの調子が出ないようだ。
あいつと別行動するたびにこんなんなってるようじゃ、ルーミィも、・・・おれも、情けねぇよな。
ため息を押し殺して、テーブルの上に足を投げ出そうとして・・・やめた。
これやると、パステルが怒るんだよ。食事するところに、足を乗せるんじゃありません!ってな。
・・・あれ? これって、ドーマのかあちゃんのセリフじゃねえ? パステルが、かあちゃんに似てきたのか?
「ごめんくださーい」
だしぬけに、玄関先で声がして、キットンと思わず顔を見合わせる。
「パステルお嬢さまのお世話になっていたおうちというのは、こちらでしょうか」
客か? おれが様子を見に行くと、オバサンが一人、申し訳なさそうに立っていた。
ゆるいパーマのかかった髪を束ね、こざっぱりとした服に、エプロンをつけている。
シルバーリーブにごろごろしてるオバサンとは、雰囲気が違う。きちっとした立ち方といい、顔つきといい・・・まるで、どこかの城に仕える乳母のようだ。
オバサンは、おれの顔を見て驚いた。
「あらあらまぁまぁ、どうしてクロックス家のお坊ちゃんが、こんなところにいらっしゃるんですか?」
クロックス家のお坊ちゃん? 
おれだって、一応お坊ちゃんと呼ばれたこともあるけど、それはブーツ家であって、クロックスなんつー家じゃない。
「はぁ? おれのこと?」
おれの様子を見て、オバサンはハッとしたように口に手を当てた。
「あらやだ・・・ごめんなさい、人違いのようですね。ええと、わたくしは、キング家で使用人をさせていただいております、ヒルデと申します」
「キングといえば、パステルはパステル・G・キングですねぇ」
おれの後ろから、キットンがひょいと頭を出した。
「ああー、そうだっけ」
「そうです。パステルお嬢さまのことで・・・お話があって、まいりました」
オバサンは、そう言って顔を曇らせた。
なんだなんだ、イヤ~な雰囲気だな。
おれは、キットンと顔を見合わせた。
 
クレイもノルも、午後からの仕事を休んで。ダイニングに、パーティ全員が集まる。
みんなの注目を集めて、ヒルデと名乗ったオバサンは話し始めた。
「ご存知の通り、パステルお嬢さまは、奥さま・・・つまりはおばあさまですね。おばあさまに手紙で呼び出されたわけですが・・・」
あいつが、お嬢さまってガラか?
いつものおれだったら、ツッコんでただろうけど。からかうダシのパステル本人がいないんじゃ、ツッコんでもしょうがないんで、黙って聞いていた。
「それが、奥さまの策略だったんです」
「策略とは、また・・・穏やかではないですね」
ギョッとしたクレイが、口をはさむ。
「・・・ええ。奥さまは、お嬢さまのご意志とは関係なく、結婚の段取りをすすめておられたのです」
がたがたがたっ
・・・みんなで、こけた。
「なんらなんら、どうしたんら?」
それをルーミィとシロが面白そうに見ている。
「け、けっこん? 相手は・・・もちろん、人間だよな?」
・・・ついこないだ、半魚人の島で、どっかの誰かさんが花嫁にされかかったことがあったばかりなんでね。おれは思わず尋ねた。
すると、オバサンは憤慨して声を荒げた。
「人間以外の誰と結婚するっておっしゃるんですか。お相手は、かくも有名な、クロックス家のご子息ですよ」
ノルとキットンが、知ってるか、いいえなどと、こそこそやりとりをしている。
クロックス? さっきこのオバサンがなんか言ってなかったか?
おれのその疑問に応えるように、オバサンはおれの顔をじっと見る。
「驚きました・・・クロックス家の、ステアさまは、あなたにそっくりなんです。わたくしも、写真でしか拝見したことはないのですけれども」
がたがたがた―――っ!!
おれたちは、せっかく座りなおしたイスから、またもや盛大にこけた。
ス、ス、ス、ステアって! よりにもよって、おれと同じ名前じゃねーか!
しかも、おれとそっくりだぁ!!??
「それは興味深いですね。トラップとそっくりなお坊ちゃんですか」
キットンがグフフと笑いながら言う。
「ばか! 笑い事じゃねーっつーの!」
おれはその頭を小突く。
「いや、しかし・・・相手はともかく、結婚というのは」
クレイが眉根を寄せた。
「そうだ。パステルが、どうしたいのかが、大切だ」
ノルが、重々しくうなずく。
「それが・・・奥さまが、パステルお嬢さまの客室に鍵をかけてしまわれたんです」
オバサンが、心底困ったように言う。
「げげ、悪質ぅ!」
一応実の祖母なんだろ? そこまでするか、フツー。
それまでは、軽く考えていたおれたちも、さすがに色めきたった。
「じゃぁ、パステルは・・・閉じ込められてるってことか?」
「囚われの姫君ってやつですね!」
「ぱーるぅ、おひめしゃまなのかぁ?」
「パステルおねーしゃん、結婚するデシか?」
「・・・パステル、かわいそうだ」
わかってないヤツ、半分面白がってるヤツ含め、総立ちになったおれたちを、オバサンが慌てて宥める。
「いえ、いえいえ、奥さまだって、意地悪をしたくてこんなことをなさってるわけではないんですよ!」
オバサンの話によると、パステルは、おれたちパーティの冒険談を載せている冒険時代を、時々送っているらしい。表向きはパステルに辛く当たっているバアさんも、実はたったひとりの孫娘が冒険者をやっていることをひどく心配していて、あちこちに聞いてまわっているそうだ。
それで、最近のハードな冒険のいくつかも、耳にしたようで。
「ほんとにもう、そのときの奥さまの取り乱しようったら・・・しばらく食事もお取りにならない有様で。毎朝毎晩、お嬢さまのご無事をお祈りしていらっしゃるんです。ええ、もちろん、わたくしたち使用人の前では、おくびにも出されませんけども」
ははぁ・・・それで、結婚させちまえば冒険にも出られなくなり、パステルの無事は保障される、と。
うぅむ、それはそれでイイ手だよな。おれが言うのもなんだけど、わからないでもない。
ただ、それがあいつだってんなら、話は別!
しかも、相手がおれにそっくりだなんていったら、ますます黙っちゃいられねえ。
「しかし、ヒルデさん。あなたは、それをわたしたちに教えてくれましたね。あなたは、パステルのおばあさまのやり方をよくは思ってらっしゃらない、ということでしょうか?」
キットンが、ボサボサの前髪から、目を光らせて問いかける。
ヒルデさんは、すかさずうなずいた。
「もちろんですとも。わたくしとて、ジョセフ坊ちゃま・・・いえ、パステルお嬢さまのお父上にあたる方ですけどね。坊ちゃまの大事なお嬢さまですもの、心配でございますよ。でも、だからこそ、こんな無理やりではなく、お好きなように、冒険も、結婚もしていただきたいのです」
だから、奥さまにお使いを頼まれたのをチャンスと思い、とりあえずおれたちのいるシルバーリーブに立ち寄ったんだそうだ。
「お使いったって・・・こんな田舎までノコノコ来たら、寄り道してるって、バレちまうんじゃねーの?」
おれが聞くと、オバサンは首を横に振って、懐から封書を取り出した。
「エベリンという街に、いいウエディングドレスショップがあるらしくて・・・そこへ、職人さんをお迎えにあがる途中なんですよ」
キチンとした封書は、どうやら依頼書か何からしい。それと一緒に添えられた紙には、エベリンの住所と、地図が描いてあった。
「ううーん、そこまで話が進んでるのか・・・」
クレイが、その紙を覗き込んでうなる。
確かに、ドレスの手配まで進んでるということは、敵(!?)は相当本気らしい。
「くりぇぇ、ぱぁーる、かえってこないのかぁ?」
ルーミィが不安そうな顔でクレイの袖を引っ張った。
みんなが、なんとかしようぜ!という雰囲気で顔を見合わせた、そのとき。
おれに名案がひらめいた!
「ルーミィ、大丈夫だ。あいつは、ぜってぇ連れ戻す!」
おれはルーミィの頭をポンポンと叩いて、高らかに宣言した。
「よっしゃぁ、花嫁奪還大作戦だ!」
 
 
おれは、ヒルデオバサンと共に、一路エベリンを目指していた。
乗合馬車は静かなズールの森を抜けて、砂漠に差し掛かろうとしている。エベリンはもうすぐだ。
「できましたよ、トラップさん」
「おう、さんきゅー」
オバサンの差し出したノートを受け取る。
おお、これぞお屋敷!って感じだな、こりゃ。
何かっつーと、キング屋敷の見取り図だ。ライラ荘とかなんとか、洒落た呼び名がついてるらしいけど、おれには関係ないね。
ホールのような玄関は吹き抜けで、2階にあがる階段がある。1階には応接室、ダイニングルーム、厨房・・・使用人の寝泊りする部屋もここだ。
ホールのど真ん中からYの字につけられた階段。途中の踊り場はテラスにつながっている。2階には、バアさんの部屋、パステルの父親が使っていた部屋の他に、客間がいくつかと納戸。
その2階の客間の、一番奥。風呂トイレ完備の部屋に、パステルは閉じ込められているらしい。
ふん、連れ出すだけなら簡単だが、今後話がこじれてもめんどくせーからな。
運のいいことに、ステア坊ちゃんはおれとそっくりだと言う。それをうまいこと利用して・・・カドが立たないように、穏便にあいつを連れ出さねーとな。
おれが唸りながら見取り図を見ていると、オバサンが階段を指して言った。
「たぶん、結婚式はお屋敷でなさるおつもりだと思うんですよ。ほら、ここの階段。ここの踊り場のステンドグラスはね、婚姻の女神様をモチーフにしてるんです。奥さまも、キング家にお嫁に来られたときは、牧師さまを呼んで、そこで挙式されたそうですからね・・・」
「へー、そりゃいいな」
おれが、グッと親指を立ててみせると、オバサンもにっこりと笑った。
まったく、どこのお坊ちゃんだか知らねぇが、おれそっくりのヤツにあいつを取られるとなっちゃ、納得いかねえ!
偽者のおれ・・・そんなヤツに、あいつは・・・あいつは・・・渡さねえ!
 
 
エベリンと言えば、おれの行き先はもう分かるだろう。
そうだ、マリーナだ。
「へぇぇ、トラップ、あんたも毎回毎回大変ねぇ」
「なんだよ、おめぇ、なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「えええ、べっつにぃ~」
おれがオバサンを連れてマリーナの古着屋に行くと、幸いなことに彼女は在宅だった。
ふぅ、ひとまず一安心だな。こいつだったら、屋敷にもぐりこんでパステルと打ち合わせしとくのも、お手のもんだからな。
おれとオバサンで事情を話して、真っ先にマリーナが言ったのがさっきのセリフだ。
なんつーか、こいつ、最近パステルが絡むと妙に嬉しそうなんだよな。
「つまりは、わたしがドレス職人として、一緒に行けばいいってことね?」
マリーナはぴょんと立ち上がると、古着を漁り始めた。
「まぁぁ、ドレスまであるんですか!」
もの珍しそうに店内を見回していたオバサンが、マリーナの引っ張り出してきたドレスを見て仰天する。
「そうですね。これだったら、ほぼ新品だし、シンプルなデザインだから・・・これをベースとして持って行って、お屋敷で、花嫁に合わせて飾りを足していくっていうやり方でどうかしら。その依頼書にも、イチから作れとは書いてないし」
「そうですよ、依頼書! これに、ショップのサインが要るんですよ」
慌てるヒルデオバサンに、マリーナは余裕の微笑みで応えた。
「それっくらい、簡単です。大丈夫! トラップとパステルのためなら、わたし協力惜しみませんから!」
 
支度をするマリーナと手伝うヒルデオバサンを置いて、おれはマリーナの家を出た。
あとは、アンドラスだ。
・・・役柄は何かって? おめえ、そんなこともわかんねーのかよ。
牧師に決まってんだろ、ぼ・く・し!
こっちは、マリーナ扮するドレス職人とは違って、ゲインズヒルのほうですでに手配がされてる可能性が高い。
牧師なんつーもんは、普通、遠方から呼ぶんじゃなくて、その地元で世話になるもんだからな。
そこをなんとかすり替わってもらわねぇと。
アンドラスにおれの作戦を打ち明ける。口髭を撫でながら、それを聞いていたアンドラスは、開口一番、こう言った。
「トラップよ・・・お前も毎回毎回、大変だな」
ったく、マリーナといい、アンドラスといい・・・
その憐れむような、面白がるような目は、なんだぁぁぁぁ―――!!



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はじめに

当ブログはFQの非公式ファンサイトです。
公式各所とは一切関係ございません。

無断転載などはやめてください。

現在、引越し作業中
こちらへどうぞ

プロフィール

HN:
まいむ
性別:
女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

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