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まいむのFQ二次創作

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あいのうた~1000キリ番リク~

エベリンからシルバーリーブに帰る途中、ジャイアント・ビーの大群に襲われて、ヒポちゃんから落ちてしまったパステルとトラップ。
小さな祠に避難するが、そこには詩人の神が祀られていて・・・!
今、パステルの力が試される!





  「きゃぁぁぁぁ!!」
  「うわっ、バカ、パステル!」
 わたしの手をギリギリで掴むトラップ。
 でも、でも、遅かった!
 ズザザザザ・・・ドサッ!!
 ふたりして、ヒポちゃんの背中から落っこちてしまったのだった。
 
 お使いクエストの帰り、ノルの冒険者カードのバグを直してもらうためにエベリンに寄ったわたしたち。マリーナも誘って、メインクーン亭で一緒にごはん食べて。そのまま宿をとって一泊したんだよね。
  そして、今朝、シルバーリーブへ向けて、ヒポちゃんを走らせていたんだけど・・・
  ズールの森に差し掛かったとたん。
  ジャイアント・ビーの大群に、追いかけられてしまったの!
  ヴヴヴヴヴヴ・・・
   「みなさん、ジャイアント・ビーですぅぅぅ!」
  ボサボサ頭を抱えたキットンが、ジャイアント・ビーの羽音に負けない大音量で叫ぶ。
   「ふ、伏せろー!」
  ヒポちゃんの操縦をしていたクレイも、ハンドルを握ったまま頭を低くしてわたしたちに叫んだ。
  ノルはルーミィとシロちゃんを抱きかかえて座席の間に押し込んで。
  もちろん、トラップは真っ先に隠れていたし、わたしも座席の影に身体を隠した。
  だけど、だけど!
   「ヒポ!落ち着け!大丈夫だから、そのまま真っ直ぐだ!」
  驚いて、左右に蛇行しながら暴走するヒポちゃんを、クレイが必死になだめてるんだけど。
  あわわわ、街道からそれてしまった!!
  深い深いズールの森の中。
  バサバサバサ、と激しい音とともに、ヒポちゃんの背中のカゴ・・・つまりわたしたちが乗り込んでいる座席にまで、木の枝や葉っぱが入ってくる。
  頭を抱えた腕を、細い腕がビシビシと打つ。いたたた・・・傷だらけになっちゃう!
  後ろのほうからは盛大な羽音が追いかけてくるし・・・もうメチャクチャだ。
   しばらくそんな状態が続いて、唐突に静かになった。
    「もう、大丈夫みたいだ」
   身体を低くしたまま後ろをうかがっていたノルが言うと、みんなホッとして起き上がった。
「だ、だめだ!伏せてろ!」
 切羽詰ったクレイの声!
 なんと、大ぶりの枝が、わたしたちの頭上をかすめようとしていた!
  「きゃぁぁぁ!」
 みんなは身を低くしてよけようとしたのに・・・なぜか、なぜかわたしだけ、横によけてしまったの!!
 そこでちょうどヒポちゃんがカクッと鋭角ターン!
 わたしはバランスを崩して・・・ヒポちゃんのカゴから放り出され・・・
 冒頭のシーンにつながるってわけ。
 
  「っつー、いってててて」
 トラップのうめく声で、わたしは意識を取り戻した。
 あれれ、ヒポちゃんから落っこちたはずなのに、痛くない。
 放り出されたショックで、一瞬意識を失ってたみたいなんだけど・・・
 森特有の、草と土の匂いで頭がぼんやりする。ふっと目をあげると、すぐそこにトラップのホコリだらけの顔があった。
 もしかして、トラップ、わたしをかばってくれたの?
   トラップは、わたしを抱きかかえて、地面に転がっていたのだ。
「おめえ、バッカじゃねえの?あそこで普通、横によけるか?」
   わたしを突き放すようにして起き上がると、トラップは帽子を取って体中をパンパンとはたいた。
「ご、ごめん・・・わたし、パニクっちゃって・・・だ、大丈夫?」
「けっ、これくらい、なんでもねえよ。さてと・・・ヒポは、まだ暴走してんのかな」
 心配して覗き込むわたしを押しのけて、トラップは立ち上がった・・・が!
 ぐらりと体がかたむく。
「うっ!!」
「ト、トラップ??どうしたの?」
「やべぇ・・・足、くじいた」
「うっそー!」
   まっすぐ立ってるのもつらいみたい。そばにあった木の幹に寄りかかって、右足の具合を確かめている。
   どうしよう・・・足くじいたってことは、添え木すればいいんだっけ?あとは、湿布貼って・・・ああ、ここに、キットンがいれば!
   わたしがパニックになってぐるぐるしていると、トラップにデコピンされた。
「いったーい!」
「ばぁか、落ち着けって。このままここでジッとしてれば、あいつら戻ってくんだろ。昼寝でもしてようぜ」
「う、うん・・・そうだよね・・・」
 わたしは、トラップの横に座り込んだ。トラップは帽子を目元まで下げて、既に昼寝モードだ。
 はぁ・・・わたしって、ほんとダメだな。
 ヒポちゃんから落っこちたのもそうだけど、トラップにかばってもらって、しかもそのトラップが怪我をしたっていうのに、何にもしてあげられない。
 あ、でも、そういえば!こないだキットンが、「足をくじいたときは、この葉っぱを揉んで患部に当てておくといいですよ。いわゆる鎮痛剤ですね。ズールの森で採っておいたんです」って、言ってたっけ。
 そうだそうだ、あの葉っぱなら覚えてる!ハートみたいな形で、白のダンダラ模様があった。
 意を決して立ち上がる。
  「ねえ!トラップ、わたし、湿布になる葉っぱを探してくるわ!こないだ、キットンに教えてもらったのよ」
 帽子をちょっとあげてわたしを見上げたトラップ。
  「おめえ、また迷子になるつもりか?おれが動けねーんだから、ここで迷子になったら、間違いなく遭難するぜ?ここで、大人しくしてろっつーの!」
  「は、はい・・・」
 ううう・・・確かに。
 ぐるりと見回すと、辺りには生い茂る木しかない。こんなところ一人で歩いたら、ここに戻ってこれる自信ないな。
 モンスターに遭う可能性だってあるんだし。
 はぁ、わたし・・・ほんとに役立たずだな・・・
 深い森はとても静かで。木々が、音を吸い込んでいるかのようだった。
 だったのに!
 ヴヴヴヴヴ・・・
   静かな森の奥から、聞き覚えのある音が近づいてきた。
「ジャイアント・ビーだわ!」
「げっ、またかよ!」
   わたしたちは慌てて伏せる。
   うわわ、近い!
   頭を抱えて目を上げると、すぐそこにトラップの顔があってビックリした。
   トラップは、そんなわたしに、アッカンベーをしてみせる。
   ぶぶぶっ、それどころじゃないでしょ!
   わたしは思わず噴き出した。
「・・・おい、・・・んだあれ?」
   ジャイアント・ビーの羽音の中、わたしの背後を指差したトラップの声が、途切れ途切れに聞こえる。
   頭を抱えたまま、後ろを見ると、そこには小さな小さな祠があった。
   木や下草に覆われてはいたけど、石のしっかりとした造り。入り口から、半地下に降りるようになってるみたい。
「あそこに隠れるか」
「えええーっ、祠だよ?神様がいるところじゃない!」
「神様ってのは、おれらが困ってるときに助けてくれるモンなんだろ?」
   うう・・・バチとか、当たらないでしょうね・・・
   トラップと、這うようにして祠に入る。カビたような、ツンとした臭いが鼻を突いた。
   うわー、ひどいなぁ。誰も、手入れとかしてないみたい。
   石壁にはコケがびっしり生えてて、じめっとしている。
   階段を数段下りると、そこはもう突き当たり。ちいさな、石像が祀られていた。
「シケた祠だなぁ。何の神だぁ?」
   石壁に寄りかかって何とか階段を下りたトラップ。一番下の段にどさっと腰を下ろした。
   わたしは、石像の足元にある、小さなプレートを読んだ。
「なになに・・・詩人の神フォルティアを祀る・・・だって」
「しじーん!?んだよ、ちょうどよかったじゃねーか、パステル。ちったぁ詩人らしくなれますようにって、祈ってったらどうだ?」
「・・・その言いかた、なんか気に障るんですけど・・・まぁ、そうね!」
   わたしは、そのちいさな石像のホコリをハンカチで軽く払う。そして、胸の前で手を組み合わせて目を閉じた。
「えっと、詩人として・・・詩人として恥ずかしくないよう、もっと美人になれますように・・・とか?」
「ちょっとお待ちなさい、お嬢さん。美人かどうかなんて、本来詩人には関係ないんですよ」
   突然、きれいなアルトの声が祠に響いた。
「でぇぇぇっ!?なんだ、おめえ!!」
   トラップが叫ぶ。
   なんと、石像の横に人(!?)が現れたのだった!
   石像と同じ服装・・・長い布を身体に巻きつけたような服を着て、同じような布の帽子を頭に被っている。目は金色で、本来耳があるべきところには、小鳥の羽のようなものが生えていた。
「わたしの名は、フォルティア。この祠に人がやってくるなんて・・・一体何十年ぶりでしょうか」
   彼(たぶん、男性だと思う)は、そう言いながら、左手を体の横に伸ばした。
   すると・・・腕から蜘蛛の糸のようなものが何本も出てきて・・・腰の辺りにつながった。そう、まるで、体の一部が竪琴になったみたいに。
   彼がそれを右手でかき鳴らすと、澄んだ音がした。
   トラップが足を引きずり引きずり、わたしの隣までやってくる。
   しげしげとその人を眺め回して。
「おめえが、ここの神様ってヤツかぁ?へぇぇ、なんつーか、妙な格好だな」
   その途端!
   フォルティアの耳代わりについた羽が、ピャッと広がった。金色の目も、ランランと光りだす。
「妙な格好ですって?この・・・この、美しい姿を、妙な、格好、ですって?」
   ちょっとちょっと、さっき、詩人と美しさとは関係ないって言ってたのに・・・
   わたしはトラップを引き寄せて、ささやいた。
「ト、トラップ、この人、神様なのよ!怒らせたらどうなるかわかんないじゃない、謝りなさいよ!」
「なんだよ、ほんとのこと言っただけだろ?それに、こんなシケた祠に住んでんだ、大したモンじゃねーって」
「聞こえてますよ」
   あわわわ、フォルティアが、トラップに細い指先を突きつけた!
「うわ、なんだよ!!」
   突きつけた指から、真っ白い煙が出て・・・トラップを包み込んだかと思うと、そのままフォルティアの帽子の中へ吸い込まれていく。
   その後に、トラップの姿はなかった。
   うそ、トラップが消えちゃったよ!?
  「トラーップ、どこ?どこに消えちゃったの?」
 わたしが口元に手を当てて叫ぶと、かすかにトラップの声が聞こえた。
  「・・・出せー、・・・んだよ、真っ暗・・・おー・・・い」
  「えーっ、どこにいるの?」
 きょろきょろと見回しても、しょせん小さな祠の中。隠れる場所なんてない。
 すると、フォルティアがにっこりと笑って、さっき煙が吸い込まれていった帽子をぽんぽんと叩いた。
 よくよく見ると、フォルティアの帽子が、もさもさ動いてる!
  「このやろー!なんなんだ、ここー!」
 トラップのわめく声に合わせて帽子が動く。
  「これだから、品のない人間は困ります」
 満足げにうなずくフォルティア。
 いや、確かにトラップは品も何もないけど・・・これって、掴まっちゃったよってこと?
  「あ、あの・・・彼を、出してやってくれませんか。口は悪いし、礼儀はなってないけど、わたしの仲間なんです」
  「そうですか。うーん・・・久々に出会った人間に、散々なことを言われて、わたしも相当傷ついたんですがね・・・」
  あごに手を当てて考え込むフォルティアに、わたしは必死で頭を下げる。
  「す、すみません!ヤツの代わりに、わたしなんでもします!」
  フォルティアは、ふうん、とつぶやいて、わたしを頭のてっぺんから足のつま先までじーっと見ると、ピッと指を立てた。
  「そうですね・・・あなた、詩人なんですね?では、わたしの傷ついた心を癒す、歌を歌ってもらえませんか。うん、それがいいですね。この帽子の中の、彼に向けて、愛の歌を」
  「あいのうた??む、無理ですよ、そんなの!だってわたし、トラップのこと・・・愛してるとか、そんなんじゃないし!」
 いそいそと腕を広げて竪琴に指をかけるフォルティアに、わたしはあわてて言った。
 わたし、予備校の課題以来、歌なんて作ったことないし!エベリンで、冒険者資格を取るときに通ってた、スンダン予備校で。それもおまけの、ギリギリ合格だったんだから!
 しかも、あ、あ、あ・・・あいのうた??
  「そうなんですか?しかし・・・まぁ、ほら、家族愛だって友人愛だって、愛ですから」
 う・・・そんなこと言ったって~!
 わたしが唇を噛んで躊躇っていると、またしてもフォルティアの帽子がもそもそ動いた。
  「無理無理、こいつ、詩人ったって、詩人らしいことひとっつもしてねーし。まぁ、マッパーらしいこともひとっつもしてねーけどな」
  「じゃああなたは、ずっとわたしの帽子の中ですよ」
 ピシャリと言ったフォルティアの言葉に、動きを止める帽子(というか、トラップ?)
  「だぁぁぁ、パステル、なんとかしてくれよー」
 ううう・・・そうだよね、いつもいつもトラップに助けてもらってるんだもん、今回はわたしがなんとかしなきゃ!
 うん、今はわたししかトラップを助けることはできないんだ。がんばらなきゃ。
 わたしは大きくひとつうなずくと、ノートとペンを取り出した。
  「わかりました。わたしに、あなたを満足させられる歌が歌えるかは分からないけど・・・やれるだけやってみます。少し、時間をもらえますか?」
 
 その間、フォルティアは静かな音楽を奏でていてくれて。(さすが、詩人の神!)
 わたしは、とても穏やかな気持ちで、歌を考えることができた。
 手紙を書くように、飾らない言葉で・・・
 普段は口げんかばかりだけど、トラップは大事なパーティの仲間だもん。
 そう、感謝をこめて・・・トラップに向けて。
 時々、フォルティアの帽子がごそごそと動くのを横目で見ながら、わたしはペンを走らせる。
 あの動き、あのタイミング、なんだか寝返りうってるみたいなんですけど・・・まさか、寝てるんじゃないでしょうね?
 
  「できましたか?」
 フォルティアが手を止めて、わたしを見る。
 たははー、なんとか書けたけど・・・こんなんでいいのか?
 相手は詩人の神様だぞ、冒険者カード剥奪ってのはないにしても、笑われちゃったりして!
 愛想笑いでノートを抱きしめるわたしに、フォルティアは優しく言った。
  「大丈夫ですよ。心をこめて、歌ってごらんなさい」
 帽子は動かない。さすがのトラップも、神妙にわたしの歌を待ってるのか・・・
 うわー、恥ずかしい!
 でもそんなことも言ってられないよね。トラップだけ置いていくわけに行かないし、きっと、クレイたちも心配して探してるだろうし。
 わたしは、最後にもう一度ノートのメモを確認して、大きく息を吸い込んだ。
 
    ねえトラップ ちょっと聞いて
    ほんとは感謝してる ほんとだよ
    いつもわたしを引っ張ってくれる その手
    怖いときや 辛いときも
    いつも一緒に旅をしてる あなたは大切な仲間だから
 
 メロディは、予備校でソフィア先生に教えてもらった歌をそのまま使わせてもらった。
 わたし、文章を書くのは好きだけど、音楽が得意ってわけじゃないからね。
 ワンコーラス目の途中から、フォルティアが竪琴で伴奏をしてくれて。
 すると、不思議なくらい、気持ちよく声が出るようになった。
 
    ねえトラップ わたし知ってるよ
    ほんとに感謝してる ほんとだよ
    みんなに向ける厳しいことば だけど
    わたしのため みんなのため
    想って言ってるんだよね あなたの大切な仲間のために
 
    ねえトラップ ちゃんと聞いて
    ほんとは感謝してる ほんとだよ
    いつもわたしを励ましてくれる その声
    嬉しいときや 楽しいときも
    いつも一緒に笑いあえる あなたは大切な仲間だから
 
 はぁぁぁぁ・・・
 歌い終わって、わたしは思わず床にへたり込んだ。
 伴奏をしていたフォルティアが、最後の余韻を弾き終えて、わたしに微笑む。
  「よくがんばりました」
 うわー、恥ずかしい。しばらく立ち直れないかも。
 動かない帽子を見て、わたしは苦笑いする。
 トラップ、これを聞いてどう思っただろ?
 普段、こうしてきちんとお礼を言うことなんてないから・・・居心地悪いだろうな。
  「いい歌でしたよ。偽りのない気持ちがあらわれてました。詩人として、大事なのはそこです。特定の誰かに向けて歌うにしても、美しい風景に感動して歌うにしても、いかに気持ちをこめられるか、ですから」
   ・・・もしかして、フォルティアは、それをわたしに分からせたかったのかな。
   わたしが、「詩人らしく美人になりたい」なんてお祈りをしたから。
   歌うように話す彼の言葉を聞きながら、私はふと思った。
   「さあ、では約束どおり、彼をお返ししましょう」
  「いいんですか!?」
  「充分ですよ。わたしは、とても癒されました」
 そう言って、フォルティアがぽんぽんと帽子を叩く・・・すると!
 真っ白い煙が帽子から噴き出して・・・祠の中が、煙で何も見えなくなってしまった。
  「うっぷ・・・げほげほげほ、トラップー?」
 わたしが呼んでも、ウンともスンとも言わない。
 やがて、煙が晴れて・・・その理由が分かった。
 姿を現したトラップ。ヤツは、いつものように帽子で顔半分隠して、シッカリおやすみ中だったのだ!!
  「たいそうな度胸だと思いますよ、わたしは」
 フォルティアも呆れて笑っている。
 わたしは飛んでいって、無言でトラップを蹴飛ばした!
  「うげっ!ってぇな、いきなりなにすんだよ!」
  「恩人に向かってなんてクチきいてんのよ!わたしの歌のおかげで、出してもらえたんだからね!」
  「それを言うなら、おめえがヒポから落ちなけりゃこんなことにはならなかったんだろ?」
  「う・・・そりゃ、そうだけどさ・・・」
 ってことは、トラップ、歌聞いてないのかな・・・?
 ドキドキしながら上目遣いで見るわたしを、トラップはあくびをしながら、ちらっと見て言った。
  「んで、愛の歌っつーのは歌えたのかよ?」
 そっか、やっぱり聞いてないんだ!
 よかったー、さすがに気恥ずかしいもんね。
 どっと安心したわたしは、胸を張った。
  「う、歌ったわよ、愛の歌!そーよ、もう、ものすごーい愛の歌だったんだから!」
  「へへぇ、それはそれは」
  「聞きたいって言ったって、もう二度と歌わないんだから!」
 トラップは、ニヤリと笑った。
  「別に、おめえの歌なんて、二度も聞きたかねーよ。さ、んじゃー街道まで戻るか」
 え、なに、二度も?・・・あ!トラップ、待って待って!
  「あなた、街道まで戻るかって、足は!?」
 平気な顔して階段をのぼりかけたトラップを、わたしはあわてて呼び止めた。
   ヒポちゃんから落ちたときに、足をくじいてひきずってたのに。
  「へ?あ、そういや、全然痛くねえ」
 フォルティアを振り返ると、彼は竪琴をかき鳴らしてうなずいた。
  「サービスですよ。また、遊びにきてください」
  「だーれが・・・むぐぐぐ」
  「ありがとうございました!ほら、トラップもお礼言うのよ!」
 減らず口を叩きかけたトラップを押さえ込んで、頭を下げさせる。
 澄んだフォルティアの歌声に見送られて、わたしたちは祠を後にした。
 
  「おーい、パステルー!トラップー!」
  「ぱーるぅー!」
  「どこデシかー!」
 森の中に戻ったわたしたちの耳に、みんなの呼ぶ声が聞こえてきた。
  「クレーイ!こっち、こっち!」
 すぐ近くでがさがさと音がしたかと思うと、ヒポちゃんの鼻面がヌッと現れた。
  「大丈夫か?怪我してないか?」
  「あのスピードのヒポちゃんから落ちたんですからねぇ、骨折くらい、してるかと思ったんですが・・・無事みたいですね」
  「ぱーるぅ、よかったおう!」
  「ごめんねー、心配かけて」
 ノルに引っ張りあげてもらって、ヒポちゃんの座席でルーミィと抱き合う。
  「ったく、とんだ目にあったぜ」
  「なんかあったのか?」
  「べっつにー!さ、ヒポ、とっととシルバーリーブに帰ろうぜぇ」
 トラップは、クレイを押しのけて、ヒポちゃんの運転席に飛び乗った。
  「なんだ、ヤツ、妙にご機嫌だな。パステル、なんかあったのか?」
  「さぁ?」
 クレイが首をかしげて、わたしの隣に座る。
 フォルティアのこと話してあげたいけど、それにはわたしの歌のことを話さないわけにはいかないもんね。
 恥ずかしいもん、ナイショ、ナイショ。
 
  「ぱーるぅ、ルーミィね、ルーミィね、ハチさんいっぱいで怖かったんだお」
  「そうね、わたしも怖かった!」
  「今年はジャイアント・ビーが異常発生でもしてるんですかね。冒険者支援グループのほうに問い合わせてみなくては」
   みんなとの話に夢中のわたしは、トラップの口笛に気づかなかった。
 
それは・・・さっきわたしが歌った、あのメロディ。
   柔らかく優しい、旋律だった。
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はじめに

当ブログはFQの非公式ファンサイトです。
公式各所とは一切関係ございません。

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プロフィール

HN:
まいむ
性別:
女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

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