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まいむのFQ二次創作

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おつかいクエスト~魔法の貝殻を探せ!~(1)

パステルたちのもとにやってきたシナリオ屋のオーシ。
オーシの持ってきた話は、冒険者向けのアイテム開発をしているリングワンダ社からの依頼だった!
魔法の貝殻を探すため、パステルたちはシェルガーデン島へ向かう!







  「おー、おめえら、相変わらずバイト三昧かぁ?」
 猪鹿亭のにぎわいの中でも、ひときわ目立つダミ声。
 わたしたちが、隅の大テーブルでその日の夕食を取っていると、そこにやってきたのは、シルバーリーブ唯一のシナリオ屋、オーシだった。
 ねじりハチマキに、無精ヒゲ。見るからにうさんくさい格好のオーシは、隣のテーブルからイスをひとつ引っ張ってくると、わたしたちの間に割り込んだ。
「また変なおつかいクエスト持ってきたって言うの?」
 わたしが食事の手を止めずにちらりと見ると、オーシはわざとらしく肩をすくめてため息をついた。
「冷てぇなぁ、でかい家まで持ってる金持ち冒険者は!いろんなクエスト世話して助けてやったっていうのによぉ!」
「おーおー、その節はどうも!おかげさまで、おれらも家が買えるような身分でございますよ」
「トラップったら、変な憎まれ口叩かないの!旅館に泊まるお金がかからなくなったとはいえ、ギリギリなことに変わりはないんだから」
「そうですそうです、今日だって、ほんとだったら家で食べるはずだったんですがね、パステルがシチューを焦がしてしまったもんだから・・・」
「キットンも、余計なこと言わない!」
「ルーミィ、ぱぁーるのしちゅー、食べたかったお」
「こら、ルーミィ。スプーン振り回しちゃだめだろ!」
 わいわい、ぎゃーぎゃー。
 オーシそっちのけになっていると、黙ってフォークとナイフを置いたノルが、オーシに向き直って聞いた。
「それで、何か用なのか?」
 そうだった!もう、トラップとキットンが余計なこと言うもんだから、オーシのことすっかり忘れてた。
 わたしたちも、ピタリとおしゃべりをやめて、オーシの言葉を待つ。
 オーシはわたしたちの注目を浴びて、ビールを一口飲むと、(トラップのグラスだ!)もったいぶって言った。
「ヒューの野郎から回ってきた話なんだがな、リングワンダっつー会社を知ってるか?」
「知ってるもなにも!冒険者のためのアイテムをいろいろ販売してる会社ですよ!ほら、ずいぶん前に、ノルに持ってってもらったでしょう、携帯用デポー旗!JBのダンジョンのときに・・・あれもそうです!」
「あ、ああー!」
「あれだろ、赤いタコみてぇなモンスターと戦ったときだな!」
「デポー旗、役に立った」
「わかったわかった、とりあえず話の続きをさせてくれ!」
 また盛り上がりそうになるわたしたちを、オーシが手を広げてなだめた。
「言うまでもなかったみたいだな。でよ、そこの会社が、今度新製品を開発するとかで・・・材料を採ってきてくれる冒険者を探してるらしいんだな。社長がヒューのお得意さんでよ、それを聞いたヒューが、ぜひあんたらにっつって、こっちに話を持ってきたってわけだ」
「ヒュー・オーシ経由ってのが怪しいけどな・・・」
 それを聞いて、トラップが渋ってみせた。
 うーん、確かに。ぜひわたしたちにっていう点も、ちょっと引っかかるよね。何か裏があるんじゃないの・・・!?
 しかし、大興奮のキットンはそんなことおかまいなしだ。
「いいじゃないですか、やりましょう!うまくすれば、説明書きに我々の名前が載るかもしれないですよ!協力者とか、なんとか・・・しかも、他の冒険者より先に、モニターとして新製品を使わせてもらえるかもしれません!」
 両手を握り締めて、ブルブルしながら力説する。
 説明書に、わたしたちの名前が載るって!?
 わたしは想像してみた。
 ―――勇敢な冒険者、パステル・G・キングによって入手された、世にも珍しいナントカを使用しています!これさえあれば、あなたも彼女のような冒険者に!―――
 なーんて!
 うわー、そんなことになったらどうしよう!
 自然と顔がニヤけてしまう。でもそれを想像したのはわたしだけじゃなかったのよねー。
 トラップは、「たんまり報酬ふんだくってやろうぜぇ!」とヤル気だし。
 ルーミィはともかく、ノルもなんだか嬉しそう。
 キットンは言うまでもなく。
 そして、クレイがオーシのごつい手を握った。
「冒険者の明るい未来のため、おれたち、やります!」


 てなわけで、わたしたちはエベリンにいた。
 リングワンダの本社がエベリンにあるとかで、ヒュー・オーシがセッティングをしてくれたんだけど・・・
 華やかなエベリンでも、また一段と高級そうな一画に、その本社はあった。
 出迎えてくれたヒュー・オーシに連れられて、最上階へ行く。
 そこは、ガラクタがギュウギュウに詰め込まれた・・・物置のような部屋になっていた。
「いやいやいや、あんたがたか、シェルルンの貝殻を取りに行ってくれるというのは!」
 そこでわたしたちを待っていたのが、株式会社リングワンダの社長だった。
 つるりとハゲた頭には、両サイドだけ白髪が生えていて、長いあごひげも同じく真っ白。鼻にひっかけられた黒縁めがねと、おんぼろの白衣。偏屈そうに曲げられた背筋。
 まさしく、「ザ・博士!」と言った格好の社長は、セカセカとわたしたちを部屋の中へ引っ張り込んだ。
 部屋の真ん中の、汚い作業机の上に、大きな紙を広げて言う。
「いやいやいや、これをごらんなさい。これこそが、わしの考えた、スーパーバンホウの設計図じゃよ!」
「スーパーバンホウ?」
「バンホウというと、方位磁石のことですね。リングワンダ製のものは、魔道師アンクレットが魔除けの魔法をかけたとかで・・・磁場のおかしいところでも、狂わないという、非常に優れたものだったと思います」
 さすがキットン。愛読書がケッコー通販のカタログってだけあるわ。
 それを耳ざとく聞きつけた社長。甲高い声でキットンを招きよせた。
「そうじゃ、おまえさん、この設計図を見るがよい。今度のスーパーバンホウはな、素材に魔力を秘めた貝殻を使うことによって、さらなる力を得るのじゃよ」
 わたしたちもキットンの頭の上から設計図を覗き込んでみたんだけど・・・
 何が書いてあるのか、全くわかんない!
 たぶん、真ん中の円が、バンホウの輪郭だと思うんだけど・・・
 そこにごちゃごちゃといろいろな線や文字が書き込まれていて、設計図というよりもルーミィの落書きだ。
「じーちゃんが、おえかきしたのかぁ?」
 ルーミィまでもが、ぽよんとした眉をしかめて、悩ましげにその設計図を見ている。
「いやいやいや、そうじゃよ。うまくいけば、まるでレーダーのように、目的地やなくしたもの、尋ね人を探索してくれる、すばらしい機能がつくはずなのじゃ!」
「おおお、これは素晴らしい!」
 キットンにはこの設計図が読めるの!?なんだか二人で大盛り上がり。
 確かに、そんな機能がついたらすごいんだけど・・・なんだか夢物語じゃない?
「それはいいんだけどよ、結局、おれらは何をすればいいわけ?」
 トラップが呆れた様子で口を挟むと、社長は机の引出しから地図を取り出した。どうやら、海図みたいね。
「その、魔力を秘めた貝殻というのがな、シェルルンという貝なのじゃよ。やつらは、その魔力で蜃気楼を作り出し、自らの身を守るという。生息地は、ここらへんじゃ」
 社長の指差す辺りを見ると・・・ゴマシオのような点が4つ・・・あれれ、これって!
「ここって・・・あの、イカクンテたちのいた・・・」
「シェルガーデン島よね!」
 わたしが、思わずクレイと顔を見合わせて叫ぶと、社長はめがねの奥の目をくりくりさせた。
「いやいやいや、知っておるのか」
 話せば長いんだけど・・・あの時も、エベリンで依頼を受けたんだよね。ムマールっていう古物商から、筒状の荷物を受け取って、コーベニアの男爵の下へと届けるおつかいで。海を渡る途中で海賊に遭って、まぁいろいろあって辿り着いたのが、イカクンテっていうイカの形をしたモンスターのいる、シェルガーデン島だったのだ。
「えーと、その、まぁ・・・一度、クエストみたいなもんで行ったことがあるんです」
 わたしは、ものすごく簡単に一言で済ませたけど、社長は気を悪くした様子もなく、うなずいた。
「いやいやいや、それなら話は早い。ここへ行って、シェルルンの貝殻を取ってきて欲しい。そうじゃな、まだ実験段階だから、数枚もあればいいじゃろ。で、報酬は・・・」
 と、社長が立てた指。
 それを見て、トラップが憤慨した。
「待て待て待て、たったそれっぽっちで、あんな海のど真ん中まで行けってのか?死にそーなくれぇの船酔いをガマンして?」
 いやそれは、トラップだけなんですけど。前の冒険のとき、トラップが船に弱いってことが判明しちゃったのよね。あのときは顔色も真っ青で、食事もろくにできなくて、ちょっとかわいそうだった。
 しかしそれを聞いて、社長も憤慨した。
「いやいやいや、あんたがた、話が違うぞ!まだ実験段階だから、高い報酬は出せんと、あらかじめ言ってあったはずじゃ!」
「言ってあったって・・・誰に?」
 わたしたちは一斉に振り向いた!
 そこには、ひとりそ知らぬ顔で葉巻をふかす、ヒュー・オーシの姿があった・・・
「ヒューさんが、安いカネでも引き受けてくれそうな、ビンボーな冒険者がいるって言うから、依頼したんじゃ!」
 がくーっ!!
 ううう、そりゃ、そうかもしれないけど・・・そこまで言われちゃうわたしたちって・・・情けない!
「まぁまぁ、いいじゃないか。船代わりの乗りモンは、あたしのほうで用意するからさ。ってことは、その報酬丸ごとあんたたちのもんだぜ?だったらさほど悪い話じゃないんじゃないの?ここはさ、ちょっとあたしの顔を立てて引き受けてくれよ」
 クレイのほうをみると、彼はうなずいた。
「うーん、まぁ・・・乗りものを用意してくれるって言うなら、いいんじゃないか?そんなにもうけにはならないが・・・今のところクエストの予定もないし、バイトでくすぶってるよりはいいし」
「だぁら、ちょっと待てって!おめえらはよくても、おれはよくねえ!こんなハシタ金で、納得できるか!」
 そこでごねたのは、やっぱりトラップだった。
 しかし、社長はヒュー・オーシにニヤリと目で合図をすると、もう一枚設計図を取り出した。
「いやいやいや、おまえさんには、これを報酬としてオマケにつけてやろう。魔法の貝殻を使った、サングラスじゃよ」
「サングラスだぁ?」
「そうじゃ、このサングラスを使えば、カードの図柄が透けて見えるのじゃ。どう使えばいいか・・・それはおまえさんがよぅくわかっておるじゃろう?」
 トラップの目の色が変わった!
 あーらーらーら。それって、インチキってことじゃない!
「ゼッタイだな?」
「もちろんじゃ、わしの設計図に間違いはない!」
 社長が胸を張って太鼓判を押すと、トラップはわたしたちをぐるりと見回して、高らかに宣言した。
「よっしゃぁ、シェルルンの貝殻、おいらがごっそりいただいてくるぜ!」
 イッちゃってるトラップの後ろで、社長とヒュー・オーシが囁き合っていた。
「いやー、社長!さすがでございます。これで安心でございますね!」
「いやいやいや、ヒューさんの言うとおりじゃな。あの透視めがねの設計図を作っておいて助かったぞ」


 一路、シェルガーデン島のあるアビス海に出るためにストーンリバーに向かったわたしたち。
 ストーンリバーにヒポちゃんを置いて、そこから、ヒュー・オーシが用意してくれる乗り物に乗って出航するつもりだったんだけど。
 ストーンリバーの、プルトニカン生命の支店にヒポちゃんを預けて。愛想のいい受付のお姉さんが案内してくれた港でわたしたちを待っていたのは・・・
「えーと、こ、これ?」
 海に浮かぶ、つるんとしたダークグレーのボディ。背中とおぼしきところからは、ときどきブシュー、ブシューと呼吸音(!?)が。
 尾びれを振って、わたしたちを歓迎しているかのような、その姿はまさしく・・・
「くじらさんだおぅ!」
 ルーミィがおおはしゃぎで、抱っこされていたノルの腕から身を乗り出した。
「なんでぇ、ご立派なクルーザーでも用意してくれてんのかと思ったら、んだよ、これ!」
 トラップが船着場の柵にしがみついて、深々とため息をつく。
 いやー、ヒュー・オーシのことだから、どうせろくな乗り物じゃないと思ってたけど。
 これって、ヒポちゃん、正式名称エレキテルヒポポタマスのお仲間なんじゃないの?
「何をおっしゃるんですか!こちらのエレキテルホエールは、並みのクルーザーじゃ太刀打ちできないくらいの、馬力を備えているんですよ!あのビッグモーター社の、新作です。それにごらんください、マリンレジャーに最適な、この設備!」
 自信満々な受付嬢。彼女のきれいな手が指し示す、そのエレキテルホエールには、白いペンキで塗られた柵と、カラフルなビーチパラソルが完備されている。
 そりゃ、甲羅干しとか、そういうのには最適かもしれないけどね・・・
 この子、エレキテルホエールって言うんだ・・・
 わたしたちがなんとも言えない顔をしているのを見て取った受付嬢は、バツが悪そうに咳払いを一つすると、クレイにキーを手渡した。
「ともかく、部長からの伝言です。『あたしの愛車のひとつを貸してやるんだ、大事に乗らないと、最高額の保険に入ってもらうからな!』だそうです」
 最高額の保険って・・・わたしたちのどこをどうしたって、入れるわけがないじゃない!
 トラップが頭を抱え込んだのは、言うまでもない。
 
 しかし、エレキテルホエールの乗り心地は、思ったほど悪くなかったのである。
 ヒポちゃんよりも新しい車種だけあって、搭載されたマップ機能もかなりの高性能。シェルガーデン島の座標を入力しただけで、あとは自動航行してくれるみたい。
 一応クレイが操縦席に座ってはいたけれど、暇そうにあくびをしている。
 わたしたちは、パラソルの下でお弁当を広げて、くつろいでいた。
「ぱーるぅ、みてみて、さかな、さかな!」
「おいしそうデシ!」
 ルーミィとシロちゃんは、海に出てからずっと柵に張り付きっぱなしだ。
 船と違って、海水面がすぐそこだからね。魚が泳いでる様子まで見えるんだ。
 水面がキラキラと反射して、まぶしい。
「ふたりとも、海に落っこちないようにするのよ!」
「はぁーい」
 あああ、なんてのどかなの・・・
「しかし、よかったですねぇ。パラソルつきで。これがなかったら、この陽射しです。日焼けどころじゃ済みませんよ」
「確かにー!」
 キットンの言葉に、ルーミィとシロちゃんの後ろで心配そうに見守っていたノルも、ウンウンとうなずいた。
「広いし、船よりも気持ちがいい」
「そうよね、そのおかげでトラップだってこうやって寝そべってられるし」
 わたしは、帽子を顔に乗せて寝そべっているトラップをつついて言った。
 トラップは、海に出る前に、キットンから酔い止めをもらっていた。
「ねえねえ、わたし、このエレキテルホエールに名前をつけてあげようと思うの!」
「だぁぁ、またおめえは、人がへたばってるときにそういうくだらないことを・・・」
「いいんじゃないか?帰りもこいつに世話になるわけだしな」
 そうそう、ヒポちゃんもそうだけど、大事な旅のパートナーなわけじゃない?
 わたしの提案に、トラップ以下の全員が賛成してくれた。
「うーん、でも、ヒポポタマスのヒポちゃんはいいけど・・・ホエールのホエちゃんってわけにもいかないわよね」
「ホーちゃんってのは、どうです?」
「それもなんか違うなぁ」
 キットンもクレイも考えてくれたけど、なかなかぴんとこない。そのとき、じっと考え込んでいたノルが口を開いた。
「くじらだから、クーが、いいと思う」
「あー、それいい!」
「くじらのクーか。呼びやすいし、いいな、それ」
「けっ、おめーら、幼稚園児かよ!」
 大喜びするわたしたちを冷めた目で見ていたトラップ。寝返りを打って向こうを向いてしまった。
 もうぅ、ノリが悪いんだから!
 わたしはトラップは放っといて、自分の座っている、クーちゃんの背中(?)を撫でた。
「聞いた?今日から、あなたはクーちゃんよ!よろしくね!」
 すると、クーちゃんは嬉しそうに身をよじったではありませんか!
「うわわわっ、つ、つめてぇぇぇぇ!」
 突然、トラップが飛び起きた。
 ぶしゅ―――!!!
 ちょうどトラップが寝ていたのが、クーちゃんの噴気孔の真上だったのね。
 そこから、水しぶき混じりの息が噴き出したから、たまらない!
「きえいだおう!」
「虹デシ!」
 しぶきのなかに、うっすらと虹が浮かんで、ルーミィとシロちゃんが飛び跳ねて喜ぶ。
「あははは、トラップ、だいじょぶ?ほら、クーちゃん喜んでるよ!」
 ぶしゅぶしゅと息を噴き出すクーちゃん。
 トラップは、びしょぬれになった背中を上にして、ぐったりとうつぶせた。
 

 一段とやる気を出してくれたクーちゃんのおかげで、船旅は順調だった。
 でも、どんなに順調だって言っても、さすがに日帰りできる距離じゃないもんね。
 夜は、クーちゃんの背中の上で、みんなで身体を寄せ合って毛布を被って寝た。
 もちろん、ひとりずつ交代で見張りをしてね。
 今回は、わたしが最初に当番になって。毛布を羽織ったまま、クーちゃんの操縦席でぼんやりと海を眺めていた。
 とは言っても、真っ暗で、水平線すら見えはしない。
 灯を一番小さくしたポタカンだけが、頼り。
 本当にわたしたち、アビス海にいるんだろうか・・・
 何も見えないというのは、人を不安にさせる。
 わたしは、クーちゃんの操縦席にあるマップパネルを見てみたけど、方角が分かったくらいで、島一つ表示されてはいなかった。 
 今のところ何もないけど、もしモンスターが出てきたら・・・ひとたまりもないな。
 わたしはぞっとして、身体を縮めた。すると。
 バサッ!
  「きゃっ!」
 いきなり、わたしの頭の上に、何かが被さってきた。ま、前が見えない!
 う、うそ!モンスター!?
 あわててそれを剥ぎ取って、あたりをパッパッと見回すと、トラップが腰に手を当てて立っていた。
  「ああああ、トラップー!びっくりさせないでよ!」 
「寒いんだろ?それ、やる」
 トラップは、わたしの手元を指差して、ぶっきらぼうに言う。そう、さっき被さってきたのは、トラップの毛布だったのね。
「ええ?いいよ、だってトラップが風邪引いちゃうじゃない」
「ふん、おれはそんなヤワじゃねぇよ」
 さすがに夜は冷える。考えてみれば、クーちゃんの回りは全部冷たい水なんだもんね。
 わたしは、トラップに返そうとして断られた毛布を、ありがたく頂戴することにした。
 それを自分の毛布に重ねて羽織って、舳先(?)に立つトラップの背中に声をかける。
  「見張り、わたしの次ってトラップだったっけ?でもまだ全然時間経ってないよ」
  「そーだよ。でも、やっぱ海の上じゃ寝れねぇから、代わってやる」 
 へぇー、珍しいこともあるじゃん!
 隣まで行って、不機嫌そうなその横顔を見て・・・思い出した。
 そっかそっか、船酔いだもんね。かわいそうだなぁ、トラップも。
 舳先のほうは、けっこう冷たい水しぶきがかかって、ますます寒い。
 トラップだって、寒くないわけがないでしょうに。意地張っちゃって。
 あ、そうだ。
  「トラップ、おいでよ」
 わたしは、毛布を広げて、トラップの腕をとった。
 ほら、やっぱり鳥肌立ててる。
 引き寄せて、背中に毛布をかけてあげると、トラップがぎょっとした顔で飛びのいた。
  「・・・!!??」
 なによ、毛布に一緒に入れてあげようと思ったのに、そんな顔することないじゃない!
 ところがそのトラップ、驚いただけじゃ済まなくて。飛びのいた拍子にクーちゃんの上で足を滑らせてしまったのだ!
 バッシャーン!!
「や、やだ、トラップ!!うそ、みんな、トラップが海に落っこちちゃった!」
 わたしがあわててみんなを叩いて起こすと、ルーミィ以外の全員が跳ね起きた。
 慣れない海の上だから、みんな熟睡してなかったのね。それが幸いしたみたい。
 クレイとノルが、ズブ濡れのトラップを引き上げている間に。キットンが、すすすっとわたしの横に来て言った。
「パステル、あなたトラップに何かしたんですか?」
 なによ、その、わたしが悪いと言わんばかりのニヤニヤ笑いは!
「失礼な!なーんにも、なーんにもしてないわよ!」


 
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プロフィール

HN:
まいむ
性別:
女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

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