忍者ブログ

まいむのFQ二次創作

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

お酒中毒にご用心!~10000キリ番リク~

これまで、自作の薬で散々パーティを騒がせてきたキットン。
今度はなんと、お酒まで作ってしまった!
大喜びで酒盛りするパーティの男たち。
しかし、これまでの例に漏れず・・・無事に済むわけは、ないのであった・・・





    耳元で、びゅうびゅうと風がうなっている。
「ほら、ルーミィ。いくらシロちゃんが飛ぶのがうまくなったっていっても、今寝たらダメよ」
「うみゅ~、だいじょーぶだぉ・・・」
わたしは、うつらうつらするルーミィを揺さぶった。
わたし自身だって、眠くないわけじゃないけど。
今わたしが寝ても、起こしてくれるトラップはいないんだからね。
それに、シロちゃんがこの風の中がんばって飛んでくれてるのに、乗ってるだけのわたしたちが、グースカ寝るわけにはいかない。
「シロちゃーん! ホーキンス山は見えてきた?」
「はいデシ! あれデシよ、パステルおねーしゃん!」
シロちゃんの指すほうを見ると、雲に届かんばかりの山の連なりが確かに見えた。
ごくっ・・・
わたしと、ルーミィと、シロちゃん。
これから、たった三人で(しかも、この三人で!)、ホーキンス山のてっぺん近くにある、木の実を採ってこなきゃならないんだ。
わたしは、ルーミィを小脇にしっかりと抱えなおし、シロちゃんの白い毛を握りしめた。
 
なんでこんなことになってるかっていうと・・・
コトの起こりは三日前の夕ごはんの時。
「さあさあ、みなさんお待ちかね、キットン特製酒ができましたよ!」
キットンが、なにやら液体の入ったボトルを、ダイニングテーブルの上にどん、と置いた。
「酒ぇ!?」
トラップが、興味深そうに覗き込む。
もう、今もビール飲んでるくせに。まだ飲むつもりなのかしらね、この男は。
「そうですそうです。ズールの森に群生するトブログの実を、発酵させて作ったんですよ」
「へぇ。酒って、そんなに簡単に作れるものなのか?」
ちなみに、クレイが飲んでるのもビール。ふたりとも、飲んだくれってほどじゃないけど、この食事のときの一杯が、楽しみでしょうがないらしい。
ビールやお酒なんて、わたしはちっとも美味しいと思えないんだけどなぁ。
「作れるんですよ。トブログの実に、酵母を混ぜてですね・・・」
「だぁぁ、ごたくはいーからさ、とっとと飲ませろよ!」
得意げに説明を始めるキットンの頭を、トラップがポカッと叩いた。
「やれやれ、トラップはせっかちなんだから。では、誰か、コップを・・・」
「コップ、持ってきた」
なんちゃって、ノルまで乗り気なのであった。
トントントン、とテーブルの上に並べられるコップ。あれれ、ノルったら、いくつ持ってきたのよ?
「ちょっと待って。わたしは、いいよ」
わたしがノルにストップをかけると、キットンが残念そうにわたしに言った。
「えええ、そうなんですかぁ? せっかく作ったんです。パステルも一杯くらい、いいじゃないですか」
「いいっていいって、要らねぇって言ってるヤツにやったって、もったいねー」
トラップが、コップになみなみとお酒を注いでいく。
そのお酒は、ちょっと黄みがかった透明で。
うわー、お酒臭い!
「くちゃい、くちゃい!」
「ハナが曲がりそうデシ!」
ルーミィとシロちゃんのお気にも召さなかったようで。わたしたちは、鼻をつまんでテーブルから遠ざかった。
「おおお、なんと深くまろやかな香り!」
クレイが、臭いをかいで、まるでどこかのツウのようなことを言う。
「では、トブログ酒の完成を祝して! かんぱーい!」
男連中は、嬉々としてそのコップを高々とかかげ・・・
一気に飲み干したのだった。
 
男たちが言うには、味はほどほどだけど、喉を通っていくときの焼けるような感覚がたまらないそうで。
夜ごはんをつまみに、大いに盛り上がっていた。
ビールはね、金銭的な問題もあって、一日一杯って決めてるんだけど・・・なんせ、キットンお手製のトブログ酒は、元手がかかってない。
そういうこともあって、ま、いわゆる飲み放題状態ってやつ?
歌は歌うわ、踊りは踊るわのどんちゃん騒ぎ。
はぁぁ、付き合ってらんないよ。
お酒を飲まないわたしは、やつらをほっといて、さっさと寝てしまったんだけど・・・
 
次の日起きてみると、ダイニングで・・・みんな、ぐったりしていたのだった。
「やだ! みんな、どうしたの?」
あわてて、テーブルに突っ伏しているクレイを揺り起こす。
「うわわ、揺さぶらないでくれ~・・・ううう、頭がガンガンする」
のびたまま片手だけ挙げて、呻くクレイ。うわ、息がお酒臭い!
「キットン、ノル!」
「うぐぐ・・・大きな声を、出さないで、くださ~い・・・」
「うう、み、みず・・・」
もうぅ、みんなして二日酔いってこと!?
信じらんな~い!
わたしは、仕方なく、みんなに水を配って歩いた。
「ほら、トラップも。お水!」
床にのびているトラップの赤毛を引っ張り、水の入ったコップをぐいと押し付ける。
「うう・・・引っ張るなっつーの・・・」
のろのろとコップを受け取ったトラップの顔を見て、わたしは驚いた。
「あ、あなた、何、その顔!」
「うるせぇなぁ・・・んだよ・・・」
何って。トラップの顔が、真っ青通り越して、赤むらさき色なのよ!
ちょっとちょっと、ほんとにただの二日酔いなの??
ごくごくと水を飲み干すトラップをまじまじと見て、わたしはトラップの額に手を当ててみた。
「うそ、トラップ! あなた、すごい熱よ!」
「あん?」
のぼせたような赤むらさきの顔で、うさんくさそうにわたしを見るトラップ。
もしかして、トラップだけじゃなくて・・・
わたしは、ハッと他のみんなの様子を見た。
美味しそうに水を飲むクレイも、とろんとした目でほっぺたを叩いているノルも、前髪に半ば覆われたキットンの顔も・・・みんな変な赤むらさき色!
「きゃぁぁぁぁぁ!」
わたしの悲鳴が、ダイニングに響いたのは言うまでもない。
 
「う~ん・・・おそらく・・・典型的なトブログの中毒症状ですね」
おでこに冷やしたタオルを当てたまま、キットンがのんびりと言う。
げげ・・・中毒って。それを起こさせた張本人のくせに、なんてノンキなの!?
「ちゅーどく?」
「中毒デシか?」
心配そうにみんなを見てまわるルーミィとシロちゃんが、素っ頓狂な声をあげる。
「キットン、それ、知ってたの?」
「いや、まぁ、はい・・・知ってたというか、なんというかですね。まぁ、発酵させれば毒成分は抜けるのではないかと・・・」
「・・・根拠は?」
「いえ、ありませんけど?」
「・・・・・・」
呆れて、ものも言えない。
どーすんのよ、この状況!
みんな、なんとか自分の部屋へ引き上げることはできたものの、ベッドに臥せったっきり。
「お待たせー、パステル。おかゆ持ってきたわよ」
「あああ、リタ! さんきゅー!」
助かった! 猪鹿亭のリタに、手伝いに来てもらったのよね。わたしひとりじゃ、こいつらの面倒、看きれないもん。
リタには、そのままクレイとトラップの部屋に行ってもらって。わたしはキットンに向き直った。
「・・・なんとかならないの?」
「・・・そうですねぇ。1週間もすれば毒素が抜けると思いますよ」
「1週間も!?」
「だから、大きい声を出さないでくださいぃ・・・うう、そうでなければ・・・あれですね。ウイズキーの実があれば、解毒作用があるんですが」
「ウイズキーの実?」
「うう・・・そうです。ホーキンス山のような、標高の高い山に自生する果実なんですが」
ホーキンス山・・・嫌な思い出がよみがえる。
JBのダンジョンがあるホーキンス山。
そのときも大変だったけど、山を越えてメルを探しに行くときにも通ったんだ。ノルを・・・ノルを、一度失ってしまった、あのとき。
わたしは思わず、自分で自分の体をぎゅっと抱いた。
でも、1週間もみんなをこのままにしておくわけにもいかないし・・・
「ぱーるぅ、くりぇいも、とりゃーぷも、くうしそうだぉ」
「みなしゃん、かわいそうデシ」
リタについて、クレイとトラップの部屋に行っていたルーミィとシロちゃんが戻ってきた。
わたしの足にぴったりとくっついて、泣きそうな目でわたしを見上げる。
うーん、自業自得っちゃぁ、自業自得なんだけど・・・
「シロちゃん、ホーキンス山のてっぺんまで、飛べる?」
「飛べるデシよ」
前は、シロちゃんの飛行技術もまだまだだったから、風の強い場所では危なくて、飛んでもらうことはできなかったんだよね。
「風が強くても、大丈夫かな・・・」
「やってみなきゃわからないデシけど、がんばるデシ!」
よーし、こうなったら。
意を決して、ルーミィとシロちゃんを見る。
ううう、三人だけのパーティとなると、心細いことこの上ないけど。
「キットン、わたし、そのウイズキーの実、採りに行ってくるわ」
 
「りゅっくするおう!」
「ボクも、リュックするデシ!」
ルーミィとシロちゃんが、自分たちの荷造りをするために、部屋を飛び出していく。
「わざわざ採りに行くんですかぁ? 1週間寝てれば、治るんですよ?」
「パステル、危険だ。おれたちなら、大丈夫」
心配そうにキットンとノルが言う。
でも、そう言ってるその顔も。人の心配してる場合じゃないでしょ!ってくらいの顔色なんだから。
熱があるから、息も荒い。
「大丈夫。シロちゃんでピュッと行って、ピュッと帰ってくるだけだから」
一度決めたからには、やりますとも。
・・・心配じゃないことはないんだけどね、自分でも。
しぶるキットンから、ウイズキーの実の特徴とイラストが描かれたメモをもらって、決意をあらたにする。
よし、クレイと、トラップにも言って行かなきゃ。
「クレイ、トラップ?」
そっとドアをノックすると。
リタが、ひょっこりと顔を出した。彼女に、キットンがしてくれた話をする。
「なに、二日酔いじゃなくて、毒!?」
リタは、呆れたように腰に手を当てると、しみじみと病人たちを眺めた。
「あっきれた! そんな、お酒ぐらい・・・うちの店で飲めばいいのに!」
「いや・・・それだと、お金がいくらあっても足りないもん。キットンが、自分で作ろうとしたのもわからないでもないんだけどね」
「でも、変なもの作って、毒にあたってちゃしょうがないじゃない」
「う、まぁ・・・そうなんだけど。ともかく、わたし、ホーキンス山まで、解毒作用があるっていう木の実を採りに行ってくるわ」
わたしがリタに言うと、クレイとトラップががばっとはねおきた。
「・・・な、何言ってるんだ、パステル! そんな危険なこと、させられるわけないだろ!」
「おめえがどうやって、そこまで行って帰ってこれるってんだよ!」
がばっと跳ね起きて叫んだふたり。そのお互いの声が響いたんだろう、顔を見合わせて辛そうに呻くと、すぐに頭を抱えて。どさっとベッドに逆戻りしてしまった。
「ほら、1週間もそんなふうに寝込ませておくわけにはいかないもん。クレイだってトラップだって、しんどいんでしょ? 熱もあるし」
わたしは、枕に顔を埋めて呻くふたりの頭を、ぺしぺしっと叩いてやった。
「・・・パステル、危険は、ないのよね?」
リタが、わたしの手を取って、聞く。
「うん、心配してくれてありがとう。無理はしないし、シロちゃんに乗せてってもらうから大丈夫よ。んで、リタ・・・悪いんだけど。わたしが留守の間、こいつらの世話、頼める?」
リタは、大きく肯いて、胸をどんと叩いた。
「もちろんよ、任せて!」
うん、リタに任せておけば、間違いないよね。
まだ何か言いたそうなクレイとトラップをリタに預けて。わたしは、自分の部屋に戻った。
いくら、行き帰りはシロちゃんが乗せてってくれるとはいえ、無防備に行くわけにもいかないからね。
携帯食糧や、ポタカン、毛布・・・トラップがいないから、ロープも自分で持ってかなきゃいけないし。キットンがいないから、傷薬も要る。
クレイもノルもいないから、何かモンスターが出たら、わたしが戦わなきゃいけないし。
ショートソードの刃を確かめて、柄の部分を強く握りしめた。
ルーミィとシロちゃんは、もうすでに、自分たちのリュックを背負って、目をきらきらさせてわたしを待っている。
「ぱーるぅ、チョコレートももったお!」
「水筒も入れたデシ!」
この子たちは・・・ピクニックにでも行くんだと思ってるんじゃないでしょうね。
ピクニック・・・そうね、ピクニックくらい、平和に行ってこれるといいな。
じゃなきゃ、そうじゃなきゃ・・・わたしたち三人で、どうもできないじゃない!
 
支度を終えて、家の外に出たわたしたち。
見送りに出てくれたリタに見守られて、シロちゃんに大きくなってもらう。
「さ、ルーミィ。しっかりシロちゃんの毛につかまってるのよ」
先にルーミィをシロちゃんの背中に押し上げて、くくりつける。
普段は背の高いノルがやってくれるんだけど、ノルもベッドの中だ。シロちゃんも、できるだけ低くなるようにはいつくばってくれてるけど・・・やっぱり、こんな些細なことでも、わたしたちだけじゃ大変だ。
四苦八苦していると、わたしの背後でリタが驚いた声で叫んだ。
「トラップ! あんた、ちゃんと寝てなきゃだめじゃない!」
えええ、トラップ?
わたしがびっくりして振り返ると、玄関のドアのところに、トラップがもたれかかってこっちを見ていた。
あわてて駆け寄って、支える。
うわ、ほんとに体熱いよ!
トラップに握られた手からも、物凄い熱が伝わってくる。
トラップは、熱で潤んだ目でわたしを見上げると、荒い呼吸の中で、ゆっくりと言った。
「ぜってぇ、無理するんじゃねーぞ」
あらやだ、珍しい。
心配して、わざわざ無理して見送りに来てくれたの?
病気になると、気が弱くなって別人みたいになるって、よく言うけど・・・ふふふ、トラップもそうだなんて、なんだかおかしい。
わたしは、そんな心配そうなトラップに、笑って見せた。
「ん、まぁ、なんとかなるでしょ」
トラップが、わたしの手を、一瞬だけ強くキュッと握る。
わたしはそれを握り返すと、トラップの体をリタに預けた。
「じゃあ、行ってくるね! リタ、よろしくー!」
シロちゃんによじ登り、大きく手を振る。
「しゅっぱつ、しんこー!」
「行くデシよ!」
ひゅうひゅうと風がうずまく。
飛び立ったシロちゃんの背中から下を見ると。
どんどん小さくなっていく家の前で、リタとトラップがずっとわたしたちを見守っていてくれた。
待っててね、すぐ戻ってくるからね!
 
険しいホーキンス山だけど、山頂付近は割りと平らで。
無事、シロちゃんは着地することができた。
シロちゃんに乗っているときと同じくらい、風がごうごうと鳴っていて、うっかりすると吹き飛ばされてしまいそう。
モンスターも、見る限りではいない。
でも・・・それは、ものすごく見通しがいいってことで。
つまり、全然植物がないのよ!
風が強いからか、それとも植物の種がこんな高いところまで飛んでこないからか、ほとんど草も木も生えていない。
ごつごつとした岩場があるだけ。
そこに、ちょっぴりコケのようなものがへばりついてはいるんだけど・・・
実なんて、ついていそうもない。
「ういずきー、あうのか?」
わたしと手をつないだルーミィが、もの珍しそうにきょろきょろする。
「うん・・・あるはずなんだけど。がんばって、探そう!」
キットンのメモを取り出して、三人で頭を寄せ合って覗き込む。
キットンも、あの状態でこれを描くのはさぞかし大変だったんだろうな。いつもは丁寧な字が、震えてて読みにくい。
なになに・・・
「なんて書いてあるデシか?」
「そうね、ウイズキーは、実を生らせると、葉っぱは力を使い果たして、枯れてしまうんですって。ってことは、枯れた葉っぱを探せばいいんじゃない?」
「わかったデシ!」
「はっぱ、さがすおう!」
飛び出していこうとするふたりに、慌てて声をかける。
「あんまり遠くに行っちゃだめよ!」
「はぁーい!」
やれやれ。
枯れた葉っぱっていったって・・・岩ばっかりのこの場所で、見つかるのかしら?
ひょいひょいと、岩の割れ目や陰を覗いていく。
ぎゃ、ぎゃぁぁぁ、ムムム・・・ムカデ!!
思わず飛びのきかけて、わたしはぐっと思いとどまった。
いやいや、ムカデごときに騒いでる場合じゃない!
ショートソードを抜いて、念のために構える。
ふえーん、ほんとに、あるんでしょうね?
 
「ルーミィ、シロちゃん、見つかった?」
向こうのほうでごそごそしているルーミィとシロちゃんに声をかける。
「ないおう!」
「見つからないデシね」
はぁぁ、ダメか・・・
ううん、諦めるのはまだ早いよね。見落としてるかもしれないし、もう一度見直してみよう。
こうやってると、なんだか・・・ダンジョンで、仕掛けを探すトラップみたいじゃない?
そんなこと言ったら、「一緒にすんな! おれは、もっと高度なことやってんだよ!」って怒られちゃいそうだけど。
トラップの様子を思い出す。
床にはいつくばって・・・どんな小さな異変も見逃さないように、じっくりしっかり観察してたっけ。
よし、トラップの真似して、やってみるか!
 
岩場に四つんばいになって、岩の隙間をひとつひとつじっくりと覗いていく。
あ、あれれ? なんかそこ、おかしくない?
岩とそっくりの色だけど、なんか質感が違うような。
ショートソードで軽くつついてみる。
暗がりでもじゃもじゃと固まるそれは・・・茶色い糸を絡めたような・・・それでも、確かに葉っぱだった。
「あーっ、これ、これじゃない?」
わたしが思わず叫ぶと、ルーミィとシロちゃんが転がるように走ってきた。
「見つかったデシか?」
「これ、はっぱかぁ?」
「うん、たぶん、そうよ・・・ほら、この絵と同じじゃない?」
そのもじゃもじゃを引っ張ると、それに包まれていた果実が顔を出した。
うん、キットンのメモに描かれてるのと同じ。ウロコのようにごつごつした表面の、ルーミィのげんこつよりもちょっと小さいくらいの赤い果実。
「これを、持って帰ればいいのね」
と、その果実を引っ張ってみたんだけど。
う~ん・・・もじゃもじゃが邪魔をして、取れない!
「パステルおねーしゃん、がんばるデシ!」
「ぱーるぅ、ばんがるお!」
「うん・・・い、いたたたっ!」
急な痛みに、わたしは、引っ張る手を慌てて離した。
よく見えなかったけど・・・もじゃもじゃに、細かいトゲがいっぱい生えてる。
ショートソードでもじゃもじゃを切り開こうとしても、トゲが痛くて押さえておくことができないから、力がこめられないし。
わたしが、トゲで傷ついた指先をくわえて考えていると。
「わぁーったお、ぱーるぅ!」
ルーミィが、ぱっと立ち上がった。
わたしとシロちゃんがびっくりして見守る中、リュックの中から取り出したのは・・・銀のロッドと、魔法の呪文を書いたメモ!
「ル、ルーミィ? どうするつもりなの?」
「ファイアーだお。もじゃもじゃにファイアーかければ、ういずきーがとれるお!」
ええええ!?
す、すごい! 名案!
確かに、ルーミィのファイアーなら、火力があんまり強くないから、中の果実まで燃えることはないだろうし、いざとなったら水筒の水をかければいいもんね。
わたしは、思わずルーミィを抱きしめた。
「えへへ、ぱーるぅ、ルーミィてんさい?」
「うんうん、天才天才!」
「ルーミィしゃん、すごいデシ!」
早速、ルーミィがメモのページをめくる。
「えっとえっと・・・」
「ルーミィ、ちょこっとよ、ちょこっと」
わたしとシロちゃんが固唾を呑んで見守る目の前で、ついにルーミィのファイアーが完成した!
「デス・マス・ファイアー!!」
ぼっとロッドの先に灯った炎は、またたく間にもじゃもじゃを焼き尽くす。
おっとっと、危ない! ウイズキーの実まで焼けちゃう!
わたしは、あわてて水筒の水をかけた。
ぶすぶすと上がる煙と、植物の焦げた臭い。
その焦げをぱっぱっと払うと・・・
果たしてわたしの手の中に、念願のウイズキーの実が、手に入ったのだった!
 
大急ぎで、シルバーリーブにとんぼ返りしたわたしたち。
病床のキットンに確認を取って、言われるがままにウイズキーの実でシロップをこしらえた。
「さ、ほら、キットン、ノル」
リタに手伝ってもらって、キットンとノルにウイズキーシロップを飲ませる。
するとどうだろう! 
赤むらさき色だった顔色が、たちまち普通の色になって・・・
「すごいな。頭、痛くなくなった」
「はぁ、だいぶ、楽になりました。あとは、少し休んでいれば大丈夫でしょう」
ニッコリと笑うノル。大きく息をつくキットン。
はぁぁぁ、よ、よかったぁぁ!
あとは、クレイとトラップだな。
彼らの部屋に行くと、クレイがベッドの上に半身を起こして出迎えてくれた。
「パステル! よかった、無事だったんだな」
「うん、ウイズキーの実もすぐに見つかったし、全然平気だったよ!」
「悪かったな、ほんとに」
「ま、それはおいといて。ほら、クレイも飲んで」
クレイに飲ませると、彼もあっという間に普段の顔色を取り戻した。
さて、あとはトラップよね。
「それがね、トラップのやつが、一番症状が重いみたいなのよ」
トラップのおでこのタオルを換えていたリタが、顔を曇らせて言う。
「ああ・・・確かに、やつが一番飲んでたからな」
「ほら、しかも、さっきパステルを見送りに出たじゃない? あれが相当しんどかったみたいで、あれから一度も目を覚まさないのよ」
「えええ、あれからずっと?」
そう、トラップったら、熱でふらふらなのに、玄関先まで見送りに来てくれたんだよね。
心配してくれてるんだなって、ちょっと嬉しかったんだけど。
胸が、チクリとする。
「そっかー。でも、これ飲めばすぐによくなるのに」
わたしは、トラップの顔を覗き込む。確かに、他のみんなよりも辛そう。
額に、汗びっしりかいてるし。
「口移しとか?」
リタが笑いながら言う。
「や、やだー! そんな、無理無理!」
「いや、パステル、それが一番早いよ。こいつ、苦しそうだし、早く楽にしてやってくれよ」
ええー! クレイまで、真面目な顔で何言ってんのよ!
「やだってば! だったらクレイがやってよ!」
「お、おれ? ほら、おれは男だし」
「じゃ、じゃあ、リタ!」
「じょーだんじゃないわよ、いくらあんたたちのこと家族みたいに思ってるったって、そこまでできないわよ! 貴重なファーストキスよ?」
ううう・・・本気で言ってるの?
そりゃ、わたしは一応ファーストキスはもう・・・もごもごもご。
いや、そういう問題じゃなくて!
う、でも・・・確かに、このままほっとくわけにもいかないし・・・
ええい、しょうがない、薬師にでもなったつもりで!
わたしは思いきって、ウイズキーシロップを口に含んだ。
トラップは、歯を食いしばって、眉間にシワを寄せてうなっている。
「ほら、早く早く」
急かすリタの声を受けて、えいっとばかりにトラップに顔を近づけて・・・
はっと思い出した!!
むかーしむかし。シロちゃんと出会ったヒールニントのダンジョンで、同じような状況があったじゃないの!
火傷を負って意識を失ったトラップに、万能薬になるホワイトドラゴンの血、シロちゃんの血を飲ませたことがあったじゃないの!
そうだそうだ、そのときは、こうしたんだった!!!
わたしは、口の中のシロップを飲み込み、トラップの鼻をえいやっとつまんだ。
「ふがっ、うががが・・・」
たまらず、口を開けるトラップ。
そこに、カップに残っていたシロップを、一気に全部流し込んだ!
「うぐっ・・・ごっくん」
トラップの口元にこぼれ出たシロップを、指でぬぐう。
その間にも、トラップの顔色はぐんぐん元通りになって・・・ふっと目を開けた。
「あー、よかった、トラップ。もう大丈夫ね?」
ほんと、よかったぁぁぁ! 
うっかり、トラップにキスしちゃうところだったわよ!
ヤレヤレとトラップを覗き込む。
「おめぇなあ、病人にはもうちょっと優しくしろよ」
彼は、わたしの目を見返して、眉をひそめた。
な、な、なんですってぇー!
ったく、誰のために、わたしたちがホーキンス山まで行ってきたと思ってるのよ!
「うるさい! 自業自得でしょ!」
「んだとぉ、元はといえば、おめぇが酒代ケチケチするから・・・」
「お酒なんかにお金かける余裕が、わたしたちのどこにあるっていうのよ!」
まったく、まったく、まったくぅ!
もう、お酒なんて、ゼッタイ飲ませないんだから!
 
 
わたしの背後で、腕組みをして、事の成り行きを見守っていたリタ。
彼女が、さも残念そうにため息をついたことを・・・わたしは知る由もなかった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



あとがき

お待たせしました、10000のキリリクでございます。
「クエストで、男性陣が、病気に!!特効薬が、モンスターはいないが、険しい山の上に咲く薬草のみ。
パステルと、ルーミィとシロちゃんでとりにいくことに。助けてもらえる仲間もなく、ルーミィを守りながら、頑張るパステル!」というリクエストをいただきました。
男性陣だけ病気、ということで、アル中(?)ネタになりました!
病気の原因がクエストじゃない・・・ルーミィ守ってない・・・と、なんだかただの情けない話になってしまいましたね・・・
しかも、最初は、「トラップのことを思い出す」というシーンもなく、後で付け足しました・・・
ええと、これで、お許しいただけますでしょうか・・・

書いてるうちにオチが自然に出てきた、とても製作者思いの作品でございます。
新FQ1巻での「トラップのじーちゃんに、シロちゃんのお母さんが血を飲ませた」シーンを、FQ1巻のトラップに流用したんですが。
そんなシーンあったっけ?という読者様は、読み返してみてください(ニヤリ)
 
 
PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

プラグイン

60000Hit,Thanks!!

ただいまキリリク停止中

はじめに

当ブログはFQの非公式ファンサイトです。
公式各所とは一切関係ございません。

無断転載などはやめてください。

現在、引越し作業中
こちらへどうぞ

プロフィール

HN:
まいむ
性別:
女性
自己紹介:
中学生の時にフォーチュンクエストにはまり、一時期手放していたものの、最近になって改めて全巻買い揃え・・・ついには二次創作まで始めてしまいました。まだ未熟ですが、自分の妄想を補完するためにも、がんがん書いていきたいと思ってます。
温かく見守ってくださる読者様募集中です。

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31